クマ牧場のヒグマ(筆者撮影) |
去年(2023年)、クマに襲われてけがをするなどした人は全国で219人に上り、このうち6人が死亡しています。これまでで最も被害が多かった2020年を大きく上回り、過去最悪の被害となりました。
出典:環境省 |
上記グラフは、被害件数になっているので197件になっていますが、人数としては、219人が被害に遭っています。
また、出没件数も年々増加しており、去年は過去最多を更新しています。
出典:環境省 |
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-situation.pdf
今年も、4月から東北地方を中心に、被害が続出しており、既に死者も出ています。特に、秋田県鹿角市(かづのし)大湯で起きた事件では、山菜取りに山に入った方がクマに襲われて死亡、遺体を運ぼうとした警察官2名が重傷を負っています。一人は、クマの爪で耳から顎まで割かれており、鼻はとれかけていたというのですから、相当です。もう一人も、腕が上がらなくなるほどの重傷を負っています。
この時、警察官は、拳銃以外にクマスプレーとナイフを装備していたそうですが、突然出てきたクマになすすべもなくやられたようです。そもそも、この警官はクマに対しては素人だったようで、ナイフで格闘ができると思っていた時点で、クマに関する知識も経験も不足していたのは明らかです。とは言え、警察学校では逮捕術は教えますが、クマとの格闘戦は教えてくれませんから、無理も無いことでしょう。結局、警察ではクマに対処できないのです。
クマが、市街地などに現れると、警察がパトカーで出動し、追い払うような映像がニューズで見かけられますが、あれは、あくまで威嚇しているだけで、抜本的な対策にはなりません。警察は、市民の安全を守る義務があるため、クマ出没の一報が入れば、出動せざるを得ませんが、対応は限られています。
警察官が装備している拳銃は、S&W M36をベースに開発されたニューナンブM60が主流で、1990年代に製造が終了するとS&W M37、2006年以降は日本の警察用カスタマイズモデルM360JサクラがS&W社から調達されています。これらの拳銃は、38スペシャルと言われる直径約9mmの弾丸5発が装てんされたリボルバーです。日本の警察では、拳銃所持は凶悪犯に対する威嚇及び自己防衛を目的としているため、殺傷能力は最低限に抑えられています。そのため、威力の低い38スペシャルしか使用でず、装填数も少ないリボルバーが採用されています。ところが、クマにたいしては、威力が全く足りません。
本州に広く分布するツキノワグマは、成獣で体長100~150cm、体重は70~130kgぐらいです。オスの方が体が大きく、体長100cm未満でも体重100kgを超えています。体長100cmといえば、人間で言えば小学生中学年程度ですが、体重は100kg以上なのですから、いかに重いかが分かると思います。体重が重いということは、それだけ筋力・骨格が強いということになりますから、普通の大人がまともにやりあっても勝ち目はありません。
これが、北海道のヒグマともなれば、更に絶望的です。ヒグマの成獣は、体長1.4~2.0m、体重は80~400kgあります。オスの成獣ともなれば、体長2.0~2.8mで体重は250~500kgにも達します。こんなのに、38スペシャルでは、豆鉄砲もいいところです。そのため、北海道を中心に、クマが出没すると、自治体から地元の猟友会に駆除の依頼が入るのですが、これが大きな問題になっています。
北海道奈井江町では、今年の5月に町と猟友会でクマの駆除について話し合いがもたれたのですが、報酬額を巡り交渉が決裂しました。町が提示した額は、日当が8500円、発砲した場合は1万300円でしたが、猟友会側は危険な業務であるにもかかわらず額が低すぎる、猟友会メンバーも高齢化が進み人数も少なく対応ができないとうのが理由でした。
報酬額については、札幌市が1回2万5300円、捕獲・運搬した場合3万6300円、島牧村は1日2万6900円、緊急時は1.5倍の4万300円、捕獲報奨金10万円が加算されます。また幌加内町は2023年にクマによる人身事故が起きたことを受け、1日6800円から1万5000円に引き上げられています。確かに、道内の他の自治体と比べると、奈井江町の金額は低いと言わざるを得ません。
現在、町は職員によるパトロールと、猟友会に属していない地元のハンターにボランティアで対応してもらうとしていますが、6月14日までの3日間にクマの目撃が4件相次いでおり、今後が危ぶまれます。
クマ駆除にあたるハンター問題は、奈井江町だけではなく、全国的な問題でもあります。猟銃を扱えるハンターは、年々減少の一歩を辿っており、高齢化も問題となっています。一方で、近年の害獣問題と、その対策として報酬額が引き上げられたことで、若い世代が猟銃免許を取得するケースが増えてきています。しかし、ここにも壁があります。クマを確実に射殺できるライフルを所持するには、散弾銃による10年間の猟師経験が必要だからです。つまり、クマ被害に悩まされて猟銃免許を取得したとしても、ライフルが使えるのは10年後になってしまうのです。
これに対し、苦肉の策として使われているのがハーフライフル銃です。ハーフライフル銃は散弾銃と同じ構造ですが、銃身の半分以下までらせん状の溝が彫られた銃です。ライフル銃には及びませんが、単弾の専用スラッグ弾なら回転して直進性が増すため、100~150メートル先のエゾシカを仕留めることも可能です。一方、溝のない散弾銃は、スラッグ弾を使っても回転しないため、有効射程が40~50メートルと短く、命中精度も低下します。銃刀法上、ハーフライフル銃は散弾銃に分類され、初心者でも所持できるため、経験を積めばヒグマを仕留めることも可能です。しかし、今年警察庁は銃刀法の改正を検討しており、ハーフライフル銃をライフル銃同様、散弾銃の経験が10年以上ないと所持できないようにするという内容が報じられています。この法改正(改悪)は、北海道内のヒグマを始めとする害獣対策を行う上では死活問題となるため、関係団体は法改正への反対を表明しています。
私が思うに、そこまで規制強化するのであれば、警察にはクマの駆除を責任を持ってやってもらいたいと思います。現状では、クマの駆除は自治体から猟友会を通じてハンターに依頼する形となっており、警察は、市民の避難誘導と、ハンターが猟銃を銃刀法の範囲内で使用しているか確認する程度にしか役に立っていません。
更に言えば、警察の対応にも問題があります。北海道砂川市で2018年8月、市の要請でヒグマをライフル銃で駆除したケースでは、市街地で発砲したという理由で銃所持許可を取り消されるという事件が起きています。北海道公安委員会は、道猟友会砂川支部長の池上治男さんがヒグマ駆除の際に、建物に向けて発射したとの理由で、銃所持許可を取り消したのです。この時、市職員と警察官も現場に立ち会っており、市職員から駆除を依頼され、ライフル銃を1発発射してヒグマを駆除したのです。ところが、あろうことか、砂川署(現・滝川署)は市街地でライフルを使用したという理由で、銃刀法違反で書類送検したのです。その後、一旦は不起訴処分となったのですが、道公安委は19年4月、銃弾が到達する可能性のある場所に建物があったとして銃刀法違反と認定し、銃所持の許可を取り消したのです。
最終的には、池上さんが道を相手取り処分の取り消しを求めて訴訟し、札幌地裁が道公安委の処分を取り消しています。この時、北海道地裁は、公安委の処分を「著しく妥当性を欠くもので違法だ」としています。裁判では、現場にいた警察官は特段、発射を制止したり、発射しないよう警告したりすることはせず、ヒグマの駆除を前提に近くの住民を避難誘導していたと指摘されており、「経緯や状況などを考慮すると、取り消し処分は裁量権の乱用と言わざるを得ない」と結論づけられています。
それにしても、なぜ警察は、駆除に協力した池上さんを銃刀法違反で書類送検するという、極めて矛盾した行動に出たのか理解に苦しみます。まあ、硬直した役人的判断と言ってしまえばそれまでですが、警察は「自分たちで駆除できない=市民を守れない」のですから、あきれた話です。既に述べたように、38スペシャル程度の豆鉄砲では、ヒグマは倒せないどころか反撃を食らう可能性が高いです。
では、特殊部隊であれば対応できるでしょうか?
残念ながら、これも厳しいでしょう。
警察には、対テロ部隊のSATと言われる特殊部隊がありますが、彼らが装備しているのはH&K社のMP5シリーズという小機関銃です。装填数は、マガジンにもよりますが20~30発が装填可能で、フルオートで射撃可能です。しかし、使用されている弾丸は9×19mmパラベラム弾で、威力的には38スペシャルと変わりません。ですから、弾数が多いとはいえ、一撃で倒すことは困難で、反撃にあったり取り逃がして被害が拡大することも想定されます。ヒグマを一撃で倒すためには、やはりライフルが必要で、装備しているのは狙撃部隊に限られます。
さて、クマ、特にヒグマに対しては普通の警察官では歯が立たず、狙撃部隊が出動しない限り対処できないワケですから、通常は猟友会に頼らざるを得ません。ところが、既に述べたように、猟友会は年々人数が減っており、高齢化も進んでいます。近年は、クマや鹿、猪などの増加もあって、若い人が増えているそうですが、それでもライフルを所持できるまでは10年かかりますから、クマに十分対処できるまでには相当な時間を要します。それに、市民がクマに襲われて死亡しているケースは、タケノコや山菜を採りに山に入ってやられています。市街地であれば、目撃後に猟友会に出動を要請する時間的余裕があるでしょうが、山中で出会い頭となれば、自分で対処するしかありません。
私が怖いのは、キャンプでクマに出くわすケースです。2023年5月には、朱鞠内湖で釣り人がヒグマに襲われて死亡しています。私は、釣りやカヤックもやるので、アウトドアでヒグマに出くわしたらと思うと、ゾっとします。
私たちが、自衛できる手段としては、クマスプレーぐらいしかありません。せめて拳銃が所持できれば違うのですが、ライフルですら厳しい規制が入る日本では、とてもではありませんが認められることは無いでしょう。それに、仮に認められたとしても、38スペシャルでは意味がありません。
38スペシャルと同口径の弾に、357マグナム弾があるので、それぐらいであればだいぶマシです。357マグナムは、日本でもマンガ・アニメで登場するので、ご存じの方も多いと思います。シティーハンターの冴羽獠のコルトパイソンや、ルパン三世の次元大介のS&W M19コンバットマグナムがそれに当たり、38スペシャルの約3倍の威力があります。
コルト パイソン 出典:Wikipedia |
S&W M19 出典:Wikipedia |
更に言えば、映画ダーティハリーでクリント・イーストウッドが使っていたS&W M29 44マグナムであれば、ヒグマでも充分対抗可能です。
S&W M29 出典:Wikipedia |
そもそも、44マグナム弾は、ライフルと共用できる弾丸というのが開発コンセプトで、大型獣を対象とした狩猟用の弾丸です。クリント・イーストウッド扮するハリー・キャラハンは、劇中で大型の6インチリボルーバーのM29を悪漢に向けてぶっ放していますが、ヒグマでも倒せる拳銃を人に向けて使っているのですからヒドイ話です(笑)。
話が脱線しましたが、日本では44マグナムなんて所持できませんから、クマスプレーで対処するしかありません。これだって、上手く顔に命中させれば良いですが、咄嗟の判断でそれがやれるか私には自信がありません。それに、仮に命中できたとしても、そのままこっちに向かって来られれば、避けれるかどうか・・・。
くまったことです(苦笑)。
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