薪ストーブを中心に、焚火関連のユニークな製品を販売しているファイヤーサイド。キャンパーの方には、グランマーコッパーケトルの製造販売元と言えばお分かりいただけるでしょうか。
本店は長野県駒ヶ根市ですが、去年(2023年)の4月28日に東京都昭島市のモリパークアウトドアヴィレッジにお店がオープン。以来、私もちょくちょく通っていますが、先週末にとてもユニークなイベントが開催されました。
グレンスフォッシュファンミーティングです。
グレンスフォッシュ・ブルークについて
グレンスフォシュ・ブルークは、スウェーデンで1902年に創業した斧専門メーカーです。伝統的な鍛造技法で造られた斧は、薪ストーブ愛好家を始め、薪割りや焚火を楽しむ人にとっては憧れの的であり、斧のロールスロイスとも言える存在です。
スウェーデンには、他にハスクバーナとハルタホースという斧製品で有名なメーカーがありますが、グレンスフォシュがそれと異なるのは、伝統的な製造技術に裏打ちされた工芸品と言えるレベルに斧を仕上げていることです。
出典:ファイヤーサイド |
他の斧メーカーが手作業から機械化へと進む中、熟練職人による手作りに拘ったグレンスフォッシュは、斧の鍛造から柄付けまで、全て創業以来の手法で製造しています。
斧頭に刻まれた職人のイニシャルは、品質の証であると同時に、彼らのクラフトマンシップの表れでもあります。
出典:ファイヤーサイド |
ファイヤーサイドは、グレンスフォッシュの日本総代理店を務めており、日本で唯一スウェーデンの本社と同様の斧頭に柄を取り付ける機械を持っています。
斧好きには夢のような光景
グレンスフォッシュは、手作りへの拘りから年間の製造本数が極めて少なく、日本でも一部の製品は年単位で待つ必要があるほど、貴重な存在でもあります。
そんなグレンスフォッシュの斧が、一堂に会する機会なんてめったにありません。斧好きの私も、そんな貴重な光景を一目見ようと、開催初日の朝からモリパークへ向かいました。
この日は、早朝が0℃を下回る寒さとあって、モンベル前の池が薄く凍っていました。
でも、日差しは暖かく、斧を振るうには絶好の斧日和(笑)。
イベントは、屋外の薪割り体験などができるゾーンと、展示と即売を兼ねた屋内ゾーンの2か所。
先ずは、屋内ゾーンへ。
見渡す限り、斧、斧、斧!!
いやー、眼福です(笑)。
日本でメジャーなのは、手斧と薪割り斧ですが、ログハウス作りに使われるカーペンターやモーティス(ほぞ斧)、それにフェリングアックス(伐採斧)まであるじゃないですか!!
写真右側の長い斧2種類がフェリングアックス。 |
チェンソー全盛の今の時代にこれで木を切り倒す機会は無いでしょうが、万が一のために1家に1本持っておきたい斧です(笑)。
丸太の皮などを削る「スウェディッシュドローナイフ」や、ログハウスの屋根板を取るための「フロー」まであります。
余談ですが、インスタを観ていると、この日の夕方には、BE-PALなどでお馴染みの長野修平さんもお見えになったらしく、ワークショップで使うからとフローをお買い上げになったそうです。
会場では、写真家で焚火愛好家でもある写風人さんが、斧のメンテナンス講座を開催していました。
長年、グレンスフォッシュを愛用されてきた写風人さんの講座はとても勉強になりました。
特に勉強になったのは、グレンスフォッシュの斧は研ぐ時にグラインダーは使ってはいけないということ。グレンスフォッシュの斧は、炭素鋼の鍛造品なので、刃を固くするために焼き入れ焼き戻しが施されています。斧の焼き入れは、200℃を超えると焼き戻されてしまうため、グラインダーで研ぐと刃がダメになるとのこと。
斧の世界、深いです。
薪割り体験で斧が欲しくなる
さて、屋内会場を後にして、薪割り体験ゾーンへ。
キャンプ熱が高じて、毎年のように玉切りを買ってきては薪割りを行う私としては、憧れの斧で薪を割ることができる貴重な機会。
早速、薪を割らせてもらいます。
流石は、グレンスフォッシュ。
杉なんて、直径20cmオーバーでも、鎧袖一触。
後ろにある、クヌギに目を付けた私。中でも太そうなやつを選んでもらい、再び挑戦。
流石にクヌギは、数発必要でしたが、難なく割れました。
キモチー!!
いやー、良いです。
私の使ったのは、大型薪割りと、薪割り槌ショート。
普段、斧頭2kgで全長約80cmのヘルコHR-1を使っている私からすると、斧頭1.8kgで全長約70cmの大型薪割りは、振り抜きやすく使いやすかったです。身長160cmの私からすると、遠心力を使って割る時に、僅か10cmとはいえ少し短めの大型薪割りは、コントロール性に優れ、体格に合っていました。
薪割り槌ショートは、斧頭2.4kg、全長約70cm。全長約80cmの薪割り槌を、日本人の体格に合わせて10cm短くしたファイヤーサイドオリジナルの製品。確かに、重い斧頭でも振り抜きやすくなっており、私でも使いこなせそうでした。
この後のトークショーでも話題に上がっていたのですが、基本的には大型薪割りがおすすめとの事。日常的に薪割りを行っている写風人さんでも、殆どの場合が大型薪割りを使うそうです。薪割り槌ショートは、ケヤキなどの繊維がねじれた割り難い玉切りを割るのに威力を発揮するとの事。
うんうん、私も経験があります。ケヤキの癖玉はめちゃくちゃ割りづらいというか割れないのですよ。でもこれさえあればパッカーンと割れるという妄想に駆られます(苦笑)。
ファイヤーサイド社長のポールさんの話によれば、常にこれを使っていると疲れるので、普段は大型薪割りを使い、ここぞという場合には薪割り槌ショートを使うとの事でした。
つまりは2本買えと(苦笑)。
ポール社長と写風人さんの掛け合いが軽妙なトークショー
今回のイベントの目玉の一つが、「ポール×写風人の斧談義」と題されたトークショー。
トークショー前の斧メンテナンス講座での一枚。 左がポール・スキャナーさん、右が写風人さん。 |
ファイヤーサイドの社長であり、生粋の焚火人のポール・キャスナーさんと写風人さんが斧談義に花を咲かせるというのですから、斧好きは見逃せません(笑)。
一応、写風人さんが、司会進行する役割のようでしたが、のっけからポールさんが暴走。そんな中で、面白かった話をいくつかピックアップします。
アメリカはボストン生まれのポールさんは、美大でグラフィックデザインを学び、そこで日本に興味を持ったそうです。卒業後の、1976年に初来日、当初は尺八を学んだのだとか。
その後、手に職が無かったポールさんは、長野の山奥で月5万円の家を借りて住むことに。その時の家にあったのがダルマストーブで、そこからポールさんの薪人生が始まります。
ダルマストーブを使いながら、薪割りや薪ストーブの使い方を覚えたポールさんは、アメリカに帰った時に、欧米で使われている薪ストーブを見つけて日本に送付、これがファイヤーサイドの創業へと繋がっていきました。
会社を興した当時は、事務所の横にティピテントを建ててそこで販売を開始したそうです。グレンスフォッシュについては、30年ほど前にヨーロッパに行った時に見つけたそうで、一目見て気に入ったポールさんは、直ぐにグレンスフォッシュ社に連絡を取り、販売したいと交渉したのだとか。
日本でダルマストーブを使い始めた頃は、日本やアメリカの斧などを使っていたそうですが、グレンスフォッシュの良さに惹かれたのは、品質もさることながら、自然に対する考え方にも共感したようです。
ポールさんは、「今は消費社会だが、良いものを長く使うのが大事」だとし、グレンスフォッシュの斧は、鉄と木で出来ているので、ゴミにならず、そういった事も含めて、「カッコいい、バラスンがいい」と説きます。
話は、自分の長年使っている斧にも及びました。
最初に登場したのは、今や非売品のほぞ切り用の小型斧。その柄の握り具合が気に入ったため、ワイルドライフの斧頭にその柄を付けてもらったのが、ハンドハチェットです。
ワイルドライフは、森で使うのに適した万能斧ですが、柄が長いため、細かい作業が不得意。
そのため、握りやすくて細かい作業に適した斧が欲しいということで、ポールさんが考案したのだそうです。
アウトドアアックスは、スウェーデンのサバイバリスト、ラーズ・ファルト氏と斧職人レナート・ペッテション氏が共同開発した斧です。枝払いや薪割りから、調理まで、様々な場面で活躍する斧です。
ミニハチェットは、グレンスフォッシュのラインアップの中で最軽量の斧。軽量で携帯性に優れるため、ナイフ代わりに料理などに使うのに向いています。
ハンターは、その名の通り、ハンティングで使われることを想定してデザインされた斧です。全長50cm弱と、両手でも使いやすい斧で、枝払いや焚き付けづくりから料理まで何でもこなす汎用性の高い斧です。
斧頭には、独特の研磨処理が施されており、ポールさんの話では、ウサギの皮を剥ぐ時に、この鏡面仕上げの部分を使うことで、肉を傷つけずに剥ぐことができるそうです。
また、料理の時には、この部分で肉を叩いたり、ニンニクを潰したりと、様々な使い方出来るとの事。
珍しい斧としては、フェリングアックス(伐採斧)が話題になりました。今では、伐採にはチェンソーが使われるため、フェアリングアックスは殆ど製造されていないそうです。そのため、ファイヤーサイドのカタログにも載っておらず、今回はたまたま入手できたのだそうです。
因みに、ポールさんのスウェーデンの友人によると、チェンソーより早いそうです。ポールさんも、「ホントか?」と思ったそうですが、チェンソーのメンテナンスに時間をかけるぐらいなら、斧の方が早いのだとか。まあ一理ありそうですが(苦笑)。
話は、斧の作り方にも及びます。グレンスフォッシュの斧は、全て一本一本、創業当時のままの手作りだそうです。
斧は、小さいほど作るのには熟練の技がいるそうで、特に小型の斧は機械が使えないため、一層職人の技術が要求され、作るのにも時間がかかるのだとか。ですから、小型だからといって安くなるわけでは無いとの事でした。
その後は、ポールさんの薪割り講座がありました。
舞台上で、実際に薪を割る時の注意点やフォームに関して細かいお話がありました。
ここでは、要点のみを箇条書きでご紹介しましょう。
薪割りについて
- 玉切は、上の面がベルト位置に来るように薪割り台高さを合わせる。玉切りが40cmの場合は、薪割台も40cmぐらいが目安。
- 地面は硬い方がいい。柔らかいと薪割りのエネルギーが逃げる。
- 玉切は、薪割台の奥に寄せて置く。こうしておくことで、斧を外しても薪割り大に当たり、足などに当たることを防ぐ。
- 足は肩幅に開く。
- 膝は柔らかくするイメージで。
- 斧を振り落とす時は、薪割り台の上を叩くイメージで、最後に腰を落とす。
- 足を切らないよう、斧が短いほど腰を落とす。
- 頭の上から真っ直ぐ振り下ろす。
- 安全対策として、安全靴、グローブ、ゴーグルは必須。
- ハンマー槌は、欅(ケヤキ)などの割り難い薪割り用。
- それでも割れない時は、楔(クサビ)を使って割る。楔は使う時は必ず2本組で。
枝払いについて
- 枝払い時は、必ず斧を体の外側に向ける。
- 枝を斧で切る時は、薪割台の端を使って、枝を斜めにして上から叩く。
- 枝を水平に置くと、斧が上に跳ね返るので危険。
- 太い枝はV字にカットして切る。
あとは、薪割り用のグローブも新発売するとの発表がありました。革のグローブを薪割りに使っていると、どうしても指先が穴が空いてしまうので、それらを重点的に補強してあるとのこと。
写風人さんが、丸二日薪割りして試したグローブだそうで、2月頃に発売予定だそうです。
最後は、じゃんけん大会とチャリティーオークションがありました。
じゃんけん大会では、斧やメンテナンスオイルなどが商品に出されていました。私は途中で敗退、斧をゲットすることができませんでした(苦笑)
その後は、ファイヤーサイドの倉庫から発見された小型薪割り斧がオークションに。斧頭には、LPのイニシャルが。LPは、グレンスフォッシュ史上伝説の職人とも言われるレナート・ペッテションのイニシャルで、現在LPは永久欠番になっているそうです。
私も、値段が買える範囲ならと思っていたのですが、早々に定価を超えて、最後は7万5000円で落札。
落札金は、全て能登半島地震の被災者の方への寄付されるということでした。
会場を後にして
貴重な斧が一堂に会するという滅多にない機会、私としても、色々と盛り上がった1日でした。
次は、いつ開催されるか分かりませんが、是非とも2回目を期待したいと思います。
最後に、こんなマニアックで幸せな空間を作って頂いたファイヤーサイドの皆さんに感謝します。
ありがとうございました!!