夏キャンプに欠かせないのが、クーラーボックス。
中でも、保冷力の高い、ハイスペックなクーラーボックスに注目が集まる季節です。
そんなクーラーボックス界(?)に、黒船がやってきました。
アイリスオーヤマの真空断熱クーラーボックスです!!
普段、シマノの6面真空断熱採用モデルフィクセルプレミアムを愛用している私にとっては、とても気になる存在でしたので、思い切って購入してみました。
アイリスオーヤマ 真空断熱クーラーボックス「HUGEL」
アイリスオーヤマと言えば、近年は白物家電で有名なメーカーです。元々は、生活用品やメタルラックなどの製造販売を手掛けていましたが、2000年代に入ってから、パナソニックやシャープの早期退職者を大量雇用し、白物家電の製造販売に進出。炊飯器とパックご飯というカニバリズム商品を展開し、自虐的なCMでも知られています。
そんなアイリスオーヤマが新たに投入したのが、今回ご紹介する真空断熱クーラーボックス「HUGEL」です。
アイリスオーヤマの主力事業である白物家電の冷蔵庫技術を応用し、6面に真空断熱パネルが採用されたクーラーボックスです。
冷蔵庫は、断熱材として真空断熱パネルが使われていますが、それをクーラーボックスに応用することで、発泡ウレタンの約1.8倍の保冷力を実現しています。
アイリスオーヤマ発表のデータによると、40℃の環境において、容量比20%の氷をクーラーボックスに入れた試験において、20Lモデルで約40時間、40Lモデルで約55時間、保冷状態を維持するとのことです。
最強の保冷力、真空断熱パネルとは
一般的に保冷力と呼ばれているのは、断熱材が関係しています。断熱材とは、熱の移動を妨げる素材のことで、クーラーボックスでいうと、外の熱が内側に移動するのを妨げることになります。そこで、断熱材はできるだけ熱伝導率の低い(熱が伝わりにくい)物質を選ぶことが重要となります。
熱伝導率の例を挙げると以下の通りです。
鉄:83.5
氷:2.2
水:0.582
乾燥空気:0.0241
※水は10°C、それ以外は0°Cの場合
断熱材として、空気がいかに優秀か分かります。
発泡スチロールや、発砲ウレタンなどが断熱材として使われているのは、熱伝導率の低い空気が大量に含まれており、断熱性に優れているからです。発泡スチロールは、約98%が空気ですから、将に空気を個体にした状態と言えるでしょう。
さて、断熱の面で熱伝導率が最も低いのが、「真空」です。熱エネルギーは、空気などの物質を媒介して移動するので、真空状態にすると媒介物が無くなり、理論上、熱伝導率はゼロになります※。
そこで登場するのが、真空断熱パネル「VIP(Vacuum InsulationPanel)」です。これは、グラスウールを積層フィルムで包み、空気を抜いて真空状態にしたものになります。冷蔵庫の他、建築物の断熱材としても利用されています。
余談ですが、VIPは、釘を打つと穴が空いて真空断熱がダメになるため、日本の木造住宅では敬遠されています。
VIPは、優れた断熱性能を誇り、熱伝導率では発泡ポリウレタンの約10倍に達します。
発泡スチロール:0.037~0.041
発泡ポリウレタン:0.025
VIP:0.0025
さて、真空といえば、水筒などに使われているステンレス真空2重ボトルを思い出す方も多いと思います。VIPは中にグラスウールが大量に入っているので、空気は抜かれているとは言え、繊維質の塊ですから熱伝導率では劣るように思われます。ではなぜ、ステンレスを使った真空パネルを使わないのでしょうか。実は、ここでも熱伝導率が関わってきます。
真空状態を保持するためには、ステンレスなどをパネル状にして保持する必要が出てきますが、ステンレスなどの金属は、熱伝導率が高いため、パネル中央部では高い断熱性を誇りますが、回り込んでいるところから熱が伝わってしまうため、全体としての熱伝導率では劣ってしまいます。
これを、専門用語でヒートブリッジと言います。VIPは、プラスチック素材の積層フィルムにアルミ箔を張り付けたものを使用しているため、ステンレスよりはるかにヒートブリッジが起こり難くなっています。最近では、アルミ箔をアルミ蒸着に変えたり、アルミレスの積層フィルムを使った製品なども登場しています。
アイリスオーヤマの真空断熱クーラーボックスは、このVIPを6面に使用しつつ、隙間を高発泡ポリウレタンで埋めています。
※熱エネルギーは赤外線としても発散されるため、真空状態でもエネルギーを放射することができます。太陽の熱が、真空の宇宙を通って地球に降り注いているのと同じことです。
真空断熱クーラーボックスHUGELの特徴
では、詳細を確認していきます。
私が購入したのは、20Lモデルです。
見た目は、一般的なキャンプ向けクーラーボックスに倣ったのか、結構ゴツめです。
蓋を開けると、本体がかなりの厚みに見えますが、ハンドルを兼ねて左右が張り出しており、前面もバックルの取り付け構造の都合で張り出しがあるため、実際の厚みとしては35mmほどです。
特筆すべきは、蓋の構造で、厚みが約39.5mmあり、内面には更に約10mmの張り出しがあります。
クーラーボックスの保冷力を高めるためには、開口部の密閉性と断熱性を高めることが重要になりますから、この構造は理にかなっています。
また、蓋裏には保冷剤をはさむためのネットが付いており、クーラーボックス内を効果的に保冷することができます。
蓋を開閉するためのバックルは、アルミダイキャスト製で、強力に蓋をロックすることができます。
開口部の密閉性を高めるためには、強い力でパッキンを圧し潰すように密着させることがキモになりますから、このバックルは見た目以上に保冷に貢献していると思われます。
ちなみに、開閉時にバックルが本体に当たるので、結構キズが付いてしまいます。まあ、アウトドアで使う物ですから私は気にしませんが(苦笑)。
ヒンジもかなりゴツく見えますが、ピンはそれ程太くないです。
底面には、ゴム脚が付いており、車載時に滑ったりすることを防止してくれます。
実力検証 アイリスオーヤマ VS シマノ
では、アイリスオーヤマの実力がどれほどのものか、検証してみました。
検証に当たっては、真空断熱パネルを使ったクーラーボックスのパイオニアであるシマノのフィクセルプレミアムと比較しました。
フィクセルシリーズは、シマノのフィッシング向けクーラーボックスで、プレミアムは6面に真空断熱パネルが採用されてたモデルになります。真空断熱パネルについては、シマノから詳細は明らかにされていませんが、カットモデルを見た所、アイリスオーヤマ同様VIPが使われているようです。
スペック上は、容量比20%の氷を、31°Cの温度下で65時間キープできる能力があります。
検証に当たっては、板氷1枚を入れて、どちらが長持ちするか比較しました。
先ずは、エアコンの効いた部屋で予冷し、本体温度を26℃に揃えます。
その後、板氷をセットし、筆者自宅の日当たりの良い2Fに置いて、6時間毎に氷の重さを計りました。
その結果がこちらです!!
氷の重量変化 |
アイリスオーヤマは、30時間後も板氷が96g残っていましたが、シマノは完全に溶けてしまいました。27時間時点では、アイリスオーヤマが208g、シマノが65g残っていましたので、28~29時間で完全に溶けてしまったことになります。
容量について、アイリスオーヤマが20Lに対し、シマノが22Lと10%の差がありますが、最初の6時間の溶けた量はシマノの方が約18%多いので、容量以上の差が付いています。
部屋の温度は、32℃~38℃で、開始12時間前後で最高気温の38℃オーバーを記録していました。僅かですが、シマノの方が12時間時点での溶け方が大きいので、最高気温の影響を受けているようです。
庫内温度の推移については、何れも開始時点では26℃で、6時間時点で約14℃、その後14℃を保っていましたが、18時間時点でシマノが19℃、アイリスオーヤマが18℃に上昇。
21時間時点では、シマノが24℃まで上昇し、最後は26℃でした(アイリスオーヤマは、19℃、22℃)。
※温度計は、安価なアナログ温度計のため参考値。
まとめ
以上、僅差とは言え、アイリスオーヤマがシマノを降す結果となりました。
スペック的には殆ど差が無いアイリスオーヤマとシマノですが、差があるとすれば、蓋でしょうか。フィクセルプレミアムは、蓋の厚さが33mmとやや薄く、真空断熱パネルとポリスチレン(発泡スチロール)が使われています。基本的に、冷気は下に溜まりますので、上面の断熱性能は大きく影響しないと考えられています。また、釣りの場合は、クーラーボックスを直接地面や船上に置くため、より下面の断熱性が求められています。こういったことから、蓋にはポリスチレンが使われることが多いのですが、外気の熱がクーラーボックス内に伝わってくることを考えると、上面もポリウレタンを採用した方が良いことは明らかで、これがアイリスオーヤマの勝利に繋がっていると思われます。
あとは、フィクセルプレミアムには水抜き栓があり、この部分は断熱材が入っていないので、僅かとは言え、保冷力低下に繋がっています。
長年、シマノの6面真空断熱パネルを愛用してきた私としては複雑な気分ですが、家電製品などにも見られる徹底的な分析力と設計力が、アイリスオーヤマのクーラーボックスにも遺憾なく発揮された結果と言えるでしょう。
最後に、価格もご紹介しておきましょう。アイリスオーヤマの真空断熱クーラーボックスは、20Lモデルで21,780円、40Lモデルで32,780円となっています。シマノのフィクセルプレミアム22Lモデルは実売価格が32,000円程でしたので(現在は廃版)、コスパ面でもアイリスオーヤマの圧勝です(苦笑)
唯一、シマノが優れているのは、両開き可能な蓋です。長年アングラーの声を聞きながら進化させてきたクーラーボックスですから、使い勝手の面では一日の長があります。
また、性能的には、更に上の6面極厚真空断熱パネルが使われているウルトラプレミアムがあります。
アウトドア向けにも、ICEBOXシリーズ、VACILANDシリーズがあり、それぞれの最上位モデルは6面極厚真空断熱パネルが使われているため、更なる保冷力があります。
とは言え、キャンプでも板氷2枚で2日も保てば十分ですから、アイリスオーヤマのコスパが光ります。
もう、キャンプのクーラーボックスで迷ったらアイリスオーヤマで良いでしょう(笑)。
尚、「HUGEL」という商品名で、ノーマルのクーラーボックスも展開されているため、購入の際は必ず真空断熱と商品名に入っているモデルを選択してください。