キャンプ動画でよく見かける、ナイフ一本での火起こし。
一見、簡単そうに見えますが、やってみると意外と難しく、なかなか火が着かないというような経験をした方もいらっしゃるかと思います。
ナイフ一本での火起こしは、ブッシュクラフトと呼ばれる技術で、コツさえつかめれば簡単にできます。
今回は、ナイフを使った薪割りから、火起こしの方法まで、キャンプでの焚火に必要なスキルを全てご紹介します。
また、私は数多くのナイフを使ってきましたので、その中からブッシュクラフトに最適なナイフ10本も併せてご紹介させていただきます。
ブッシュクラフトとは
ブッシュクラフトとは、一言でいうと「森や山の中で必要最低限の道具で生活すること」です。ナイフ1本と火打石で火を起こし、森の中で地面に座ってコーヒーを飲むようなスタイルをイメージしてもらえれば、分かりやすいと思います。
現在のブッシュクラフトは、北欧が起源とされていますが、これは、北欧が森に恵まれており、木工が盛んだったことに由来します。寒冷で穀物が育ちにくい北欧は、永らく狩猟・採集の生活が続いてきたため、自然の中で生きる知恵としてのブッシュクラフトが発達したとされています。
寒冷地での狩猟生活では、森の中で小屋(シェルター)を作り、火を起こし、木を削り出してカップやスプーンを作るなど、様々なスキルが必要です。
今回ご紹介するバトニングは、火お越しのための基礎技術です。
バトニングに必要となる物
ナイフ
バトニングとは、薪をナイフで割る技術です。ナイフのスパイン(峰)を別の薪などで叩いて、薪を割り拡げていきます。
太い薪は、そのままでは火が付き難いので、薪を割って細くする必要があります。そのため、ナイフは必須の道具となりますし、バトニング後のフェザースティック作りや火起こしの場面でも重要な役割を果たします。
バトニングに使うナイフで良く言われるのが、フルタングです。フルタングとは、ブレードからハンドルまで、1枚の板状につながった構造のことを指します。ナイフのブレードを叩いて薪を割っていくと、力がブレードのつけ根に集中するため、フォールディングナイフなどでは、ナイフが壊れてしまいます。
そのため、ブレードとハンドルが一体構造になったシースナイフと言われるナイフが必要となり、その中でも構造的に最も強いのがフルタングという事になります。
薪割台
薪を効率よく安全に割るためには、薪割台は必須アイテムです。太薪を薪割台代わりにするテクニックもありますが、安全性の面では薪割台を使うことをおすすめします。
また、薪割台があれば、バトニング中にナイフが地面に当たったりすることも無いため、ナイフを保護する上でも持っておいた方が良いアイテムです。
皮手袋
皮手袋は、ナイフでけがをするのを防止するという意味もありますが、それよりもバトニング時に薪のトゲ(ソゲ)が刺さることを防止するというのが主目的となります。
そのため、トゲを通しにくい皮手袋がベターで、ナイフの取り回しやすい手に合ったサイズの物を選んでください。
たまに、焚火などで使う耐火手袋を使っている方がいますが、耐火手袋はサイズが大きく、ナイフが握り難いため、かえって危険です。
ブッシュクラフトに最適なナイフ10選
モーラナイフ コンパニオンスパーク
モーラナイフは、1891年創業のスウェーデンを代表するナイフメーカーで、安価で切れ味が良いことから、多くのキャンパーに支持されている。
コンパニオンスパークは、モーラのラインアップ中で最もポピュラーなコンパニオンにファイヤースターターを追加したモデル。
グリップ内にファイヤースターターが内蔵されており、これ1本で火起こしまでできるのが魅力。尚、専用のファイヤースターターは別売されているため、消耗すれば交換も可能。
フルタングでは無いため、広葉樹の固い薪を割るのは危険だが、杉などの針葉樹であれば、問題無い。
カラーバリエーションが豊富で、価格も安価なため、子供向けのプレゼントにも向いている。
モーラナイフ ブッシュクラフトフォレスト
ブレードの根元側が刃厚2.5mm、先側が刃厚1mmと、ブレードの途中で厚みが変わるプロファイルグラインドという特殊な形状をしたナイフ。バトニングのような力がかかる作業は刃厚のある根本側、細かい作業は刃先側と、1本で使い分けることができるようになっている。
実際に使ってみると、食材を切るなど調理には刃先が使いやすく、フェザースティックなども作りやすい。
本ナイフの姉妹品としては、シースにファイヤースターターが追加されたブッシュクラフトサバイバルや、スパイン側でファイヤースターターを擦れるようにエッジが立たせてあるカンスボルなどがある。
モーラナイフ ガーバーグ
モーラナイフのフラッグシップと言えるフルタング構造のナイフ。刃厚も3.2mmあるので、バトニング向きのナイフと言える。
鋼材は、ステンレスとカーボンスチール(炭素鋼)があるが、スウェーデンのサンドヴィック社の14C28Nが使われているステンレスの方がおすすめ。14C28Nは、他のモーラナイフに使われている12C27の上位鋼材で、耐食性と耐摩耗性に優れている。
厳密に比較すれば、炭素鋼の方が切れ味が良いが、バトニング時の耐久性・耐摩耗性を考慮するとステンレスの方が良い。
ヘレ テマガミ
出典:UPI |
1932年創業のノルウェーのナイフメーカーであるヘレ。北欧ナイフの伝統に従って作られた、クラフトマンシップ溢れるナイフは、伝統工芸品とも呼べる逸品。キャンプ芸人ヒロシがヘレのディディガルガルを愛用していることもあり、日本でも一気に知名度が上がった。
テマガミは、刃長とのバランスが良く、オールラウンドで使えるブッシュクラフトナイフ。ハーフタングだが、十分な強度があるため、広葉樹のバトニングにも使用可能。
ステンレスとカーボンスチール(炭素鋼)モデルが存在するが、ガーバーグ同様14C28Nを使用しているステンレスモデルがおすすめ。
ユニフレーム UFブッシュクラフトナイフ
焚火台などで有名なユニフレームが、製造を刃物の街として有名な岐阜県関市のメーカーに依頼して造り上げた1本。ハーフタングだが、刃厚3.5mmとガーバーグより少し厚みがあり、バトニング面でもとてもバランスの良いナイフ。
スパインは、角が立っており、ファイヤースターターのストライカーとしても優秀。更に、ハーフタングがグリップ上部に出ているため、バトニング時にグリップ側を叩く時も安心して叩けるなど、細部に至るまで抜かりが無い。
使用されている鋼材は、愛知製鋼の8Aという刃物用ステンレス鋼材で、靭性、耐摩耗性、耐食性のバランスが良く、ステンレスにしては研ぎやすいため、メンテナンス性にも富んでいる。
今回紹介している10本の中で、最もコスパが良く、キャンプでのバトニングから火起こしに向いているナイフ。
ファルクニーベン F1
スウェーデン空軍に制式採用されているナイフ。ファルクニーベンは、スウェーデンのナイフメーカーだが、F1の製造は日本の刃物メーカー「服部刃物」に委託されている。
刃長は97mmと若干短いが、刃厚は4.5mmとかなりの厚みがあり、コンベックスグラインド(蛤刃)に仕上げられたブレードは、バトニングで絶大な威力を発揮する。
F1はブレードに特徴があり、VG-10(V金10)という鋼材を420J2という鋼材で挟み込んだ3層構造になっている。これは、和包丁などに見られる構造で、固くて切れ味の鋭い刃の鋼材を、柔らかくて耐衝撃性に富んだ鋼材で挟み込むことで、切れ味と耐衝撃性を高度に両立している。そのため、バトニングのようなハードな使用には最も向いている。
リアルスチール ブッシュクラフト プラス
ヴィクトリノックス アウトドアマスターL
マルチツールで有名なスイスのヴィクトリノックスが作った、本格志向のナイフ。
刃厚が4mmと厚く、マルチツールのイメージを覆すに十分なナイフに仕上がっている。ブレードは、使いやすいドロップポイントのスカンジグラインドで、ブッシュクラフトに適している。造りも非常に丁寧で、手の形に合うように削り出されたマイカルタハンドルや、タングとハンドルの間に赤いスペーサーシートが入れられているなど、高級刃物を思わせるデザインが秀逸。
勿論、実用性も高く、バトニングからフェザースティック作りまで何でもこなせ、付属のファイヤースターターを使って火起こしも可能。スパインは、火花が出やすいように特殊な角度が付けられている。シースもカイデックスが採用されており、ブレードが濡れたままでも収納できるなど、ハードな利用に耐えうる設計となっている。
鋼材は非公開だが、耐食性と切れ味に優れたブレードは折り紙付き。
トヨクニ 独遊(ひとりあそび)
モーラがスカンジナビアンスタイルのブッシュクラフトナイフの代表とすれば、トヨクニは和式ブッシュクラフトナイフの代表と呼べるだろう。日本の伝統的鍛造刃物のひとつ土佐打刃物の流れを汲むトヨクニ(豊国鍛工場)。独遊は、トヨクニの鍛冶師であり四代目晶之(まさの)の名を受け継ぐ濱口誠氏の手による、オリジナリティあふれるナイフ。
刃厚4.5mmのフルタングは、バトニングでも抜群の破壊力を示すが、切れ味も群を抜いているため、フェザースティックも作りやすい。形状は、スカンジナビアンスタイルと剣鉈などの和式刃物を併せ持った独特のスタイルで、取り回しも良好で扱いやすい。コンベックスに仕上げられたブレードは、日本刀を思わせるだけでなく、切れ味と耐久性を両立している。
鋼材は、オリジナルの白紙鋼が使用されており、抜群の切れ味を誇るが、和包丁に使われている炭素鋼と同様、錆びやすいのが唯一の欠点か。
ハンドルは、パラコード巻きとなっているため、握りやすさの点では劣るが、自分の好みにカスタムして楽しむことができるのがいい。本革製のシースも、厚みのある丈夫な造りで、とても付属のシースとは思えないほど良質。
本格的なブッシュクラフターを目指す上でも、1本は持っておきたい逸品。
KA-BAR(ケイバー) BK2 ベッカーコンパニオン
本ブログでも、何度もご登場いただいている、バトニングに特化したナイフ。
刃厚は、圧巻の6.35mm。更に分厚いコーティングが施されているため、実測は7mm近い。その厚みから繰り出される破壊力は、他の追随を許さず、その重量と相まって暴力的と言っても過言では無い。
ブレード形状は、標準的なドロップポイントのセイバーグラインドだが、刃幅も40mmあるため、バトニングでこのナイフを折ることは不可能だろう。鋼材は、1095高炭素鋼をベースに、クロムとバナジウムを添加して、切れ味と耐摩耗性を向上させた、KA-BAR社オリジナルの鋼材ではあるが、刃が鈍角なため切れ味は悪い。一応、エッジを鋭角に付け直せば切れるようになるが、通常のナイフの2倍以上の重さがあるこのナイフを、キレッキレに仕上げた所で、使う場面がバトニング以外にあるかは疑問。
個人的には、斧を忘れた時のための、薪割り専用ナイフとして常備している。
バトニングの方法
バトニングの方法ですが、ナイフを薪に当てて、上からスパイン(峰)を別の薪などで叩いて割っていきます。
バトニングの注意点
①周りに人がいないことを確認する
バトニングは、ナイフを使いますし、薪で激しく叩きますので、万が一を考えて周囲に人がいないことを確認しましょう。
特に、小さい子供は、何にでも興味を持って近づいてきますから、気をつけてください。
周囲との距離は、半径1m以内を目安にしてください。
②皮手袋をする
バトニングに必要な道具でも挙げた通り、必ず皮手袋をしましょう。
皮手袋は、ナイフでけがをするのを防止するだけでなく、薪のトゲが手に刺さることを防ぐことができます。
③節のある薪は避ける
薪には、節があることがよくありますが、節はバトニングでは割れません。ですから、薪に節があるものは、避けるようにしましょう。
④無理をしない
杉などの針葉樹の薪は簡単に割れますが、広葉樹の薪はとても堅く割り難いです。そのため、ナイフが途中で抜けなくなったりすることがあります。そのような場合は、薪の割れ目に細割の薪や枝を差し込んで、ナイフを抜いてください。
強引にバトニングを続けると、ナイフを痛めたり、最悪怪我をすることに繋がりますので、引き返す勇気をもちましょう。
バトニングした薪を使った火起こし
バトニングで薪を小割にしたら、焚火を熾していきましょう。
ここで注意点があります。
火起こしには、必ず杉などの針葉樹を使用しましょう。広葉樹は堅く燃えにくいため、最初の火起こしには向いていません。そこで、柔らかくて燃えやすい針葉樹を使います。
また、焚き付けとして、麻紐または脱脂綿を用意しておくと、ファイヤースターターを使った火起こしが容易になります。
①フェザースティックを作る
いくら針葉樹でも、小割にした薪そのままでは、火が着き難いです。そのため、薪をナイフで毛羽立たせ、燃えやすくします。この毛羽立たせた薪のことを、フェザースティックと呼びます。
太さ2~3cmの小割の薪を用意する
小割の針葉樹の薪を5本ほど用意します。
あまり細すぎると、フェザーを削る時に薪が折れてしまうので、割り箸よりも太目を目安にしてください。
最初の切り込みを入れる
ナイフの刃を上から押さえつけるようにして削ります。
ナイフの刃は、薪に対し直角ではなく、少し角度を付ける方が、抵抗が少なく削りやすいです。
最初の切り込みは、深く入れることで、フェザーごと削り落としてしまうのを防ぐストッパーの役目を果たすことができます。
フェザーを作っていく
フェザーを削り落とさないように、慎重に削っていきます。
薪の角を削るようにすると、比較的楽に削ることができます。
以上の手順で、フェザースティックを4~5本作ります。
片側だけ削る方法以外に、薪の周囲を削って彼岸花のような形にする方法もあります。
②薪を組む
フェザースティックが用意できれば、薪を組んでいきます。
先ず、焚き付けとなる脱脂綿またはほぐした麻紐を入れ、その上にフェザースティックを置きます。
この時に、フェザースティックを作る時に削り損なったカスなども乗せてしまいます。削りカスも立派な焚き付けです(笑)。
次に、太めの薪を1本差し渡します。
この上に、小割の薪を並べていきます。
薪を入れすぎると、ファイヤースターターで着火しづらくなるので、最初はあまり多く入れる必用はありません。
③ファイヤースターターで火を点ける
フェザースティックの炎が小割の薪に移ったら、適宜小割の薪を足していき、火を大きく育てていきます。
炎の勢いが出てきたら、順次太い薪を入れていきましょう。
上級編~ティンダーフェザーで火起こし~
まとめ
キャンプでの焚火は、非日常的で、とても楽しいものです。
火を起こすだけであれば、ガストーチと割り箸だけで充分なのですが、それでは折角の火遊びが台無しです(苦笑)
折角のアウトドアですから、ナイフを使いこなして焚火を楽しんでみてはいかがでしょうか。
練習は必要ですが、ナイフ一本での火起こしは、レクリエーションとしても楽しいですし、小学校以上のお子さんがいるファミリーであれば親子で挑戦してみてはいかがでしょうか。
刃物は、子供の頃から使い慣れることが肝心ですから、怖がらずに、でも慎重に使ってみることをおすすめします。