バーベキュー(BBQ)は、アメリカで発展した料理で、日本でも最もポピュラーなアウトドア料理として定着しています。
ただ、日本のBBQは事実上野外焼肉であり、本場のスタイルとは大きく異なります。私も、長年焼肉スタイルのBBQを行ってきましたが、元々それほど焼肉が好きではなかったこともあり、食傷気味でした。
そんな時に、アメリカンスタイルのBBQを知った私。同じBBQという名前でも、全く別物と言える内容にカルチャーショックを受けつつも、「こんなん日本では無理!」というのが当時の結論でした。しかし、仕込みやソースを工夫すれば、本場のBBQ同等の料理が可能で、肉も比較的安い物を美味しく食べられるということもあって、独自にアレンジしてBBQを楽しむようになりました。
本場のBBQとは
アメリカ映画を見ていると、ホームパーティーでBBQをしている場面が出てきます。据え置き型のバーベキューピットで、モクモクと煙をあげながら、巨大な塊肉を焼いているシーンは、アメリカらしい豪快さが表現されていますが、逆に驚きを超えて滑稽に見えるぐらいです(苦笑)。BBQの本場であるアメリカでは、塊肉を100℃前後の低温で、場合によっては丸1日以上かけてじっくりと焼き上げます。この低温で長時間というのがポイントで、BBQピットには必ずフタが付いており、これでじっくり蒸し焼きにすることができるのです。
使用される肉は、牛や豚のリブ(肋骨)や肩肉などの筋が多くて硬い部位で、これを長時間かけて焼くことで柔らかくしていきます。
アメリカでは、スペアリブ、ブリスケット(牛肩バラ肉)、プルドポーク(豚肩ロース)がバーベキューの三大料理とされていますが、日本ではあまり馴染が無いだけでなく、そもそも塊肉で売っている店が殆ど無いのが実情です。
また、これらの塊肉を使ったBBQは、調理に時間がかかりすぎるので、日本向けとは言い難いです。たとえ庭付きの一軒家でも、24時間肉を焼いていれば、近所から苦情が出るのは必至でしょう(^_^;)
そこで、本場のBBQらしい料理にするために、工夫が必要となってくるのです。
BBQは前日から始まっている
BBQは、肉を焼く前から始まっています。硬い肉を柔らかくし、味を浸み込ませるためには、前日からの仕込みが肝心となります。
玉ねぎ、ニンニク、ショウガなどをすりおろし、コチュジャンやBBQソースと一緒に混ぜ合わせたオリジナルソース。 |
特に、安い輸入肉は、肉質が硬いものが多いので、前日からの下処理が美味しさを大きく左右します。肉を柔らかくするの物としては、酵素があります。酵素は、肉の主成分であるタンパク質を分解し、アミノ酸などの旨味成分へ変化させます。これによって、肉が柔らかくなるだけでなく、旨味もアップします。これが熟成です。
通常の熟成は、生肉や生魚を低温で保存することで進みますが、これは、肉の中に含まれるタンパク分解酵素の働きによる物です。低温で熟成させるには、かなりの時間がかかりますが、酵素を多く含む食材で下処理することで、熟成を早めることができます。
パイナップル
パイナップルには、ブロメラインという酵素が含まれています。パイナップルの切り身を使うのも良いですが、100%果汁のパイナップルジュースを使用するのをおすすめします。
玉ねぎ
玉ねぎには、プロテアーゼという酵素が含まれています。玉ねぎをすりおろして、BBQソースと混ぜて漬け込むのがおすすめです。
塩麴
麹は、お米にコウジカビというカビが付いて繁殖したものです。コウジカビは、タンパク質を分解するプロテアーゼや、脂質を分解するリパーゼなど、様々な酵素を持っていますので、肉を漬け込むのにも向いています。
酢
いわゆる、食用のお酢は、酢酸が主成分となっています。酵素による熟成とは異なりますが、酢酸もタンパク質を加水分解しアミノ酸に変えます。
酢酸によってタンパク質を加水分解するためには、加熱が必要となりますので、長時間じっくり火を通す煮込み料理や遠火のBBQと相性が良いです。
以上のように、酵素を多く持つ食材と合わせて、一晩寝かせることで、肉のタンパク質を分解して柔らかくすることができます。更に、分解されたタンパク質は、旨味成分のアミノ酸に変わりますので、味も良くなるというわけです。
食べやすさと味付けを考えた肉の切り方
本場のBBQのように塊肉をそのまま豪快に焼くのもアリですが、それだと時間がかかりすぎるのと、グループなどの大人数では、切り分け作業などが別途必要となるため、ある程度の大きさに切りそろえるのがベターです。
また、ある程度の大きさに切ることで、酵素や酢が肉と触れる面積を大きくし、熟成を促進することができます。
私は、2~3口で食べられる大きさに切りそろえています。1口サイズだと、食べ応えがイマイチなのと、BBQソースなどの味が染み込み過ぎるからです。
レシピ紹介
鶏むね肉
鶏のむね肉は、火を通すと固くなるので、それを防ぐには下ごしらえが特に重要となります。
レシピは、味付けは最低限にしていますので、焼く前に追加で塩コショウをしたり、各種スパイスを加えてください。
レシピ(鶏むね肉2枚分)
日本酒:大さじ3杯
砂糖:小さじ2杯
塩:適量
ニンニク:1片
ローズマリー:適量
①調味液が染み込みやすいように、むね肉にフォークで穴を開けます
②適当な大きさに切り分けます
③ニンニクをすりおろし、他の調味料と混ぜ合わせたソースに漬け込みます
鶏もも肉
鶏もも肉は、焼き鳥として食べるぐらいですから、あまり下ごしらえを気にしなくても良い肉です。ただ、一手間かけるといつもと違った味に仕上がりますのでおすすめです。
今回ご紹介するのは、沖縄料理のブエノチキンを参考にしたレシピです。
レシピ(鶏もも肉2枚分)
日本酒:大さじ1杯
酢:大さじ3杯
ニンニク:2片
塩:小さじ1杯
ハーブスパイス:タイム、セージ、ローズマリー、レモングラス等を適量
①鶏モモ肉を、短冊状に切りそろえます。
②レシピの調味料を混ぜ合わせたソースに漬け込みます
豚肉
豚肉は、肩ロースやスペアリブがおすすめです。
味付けは、甘じょっぱい味が向いていますが、パンチを利かすために豆板醤で辛味を効かせています。
レシピ(スペアリブ800g程度)
玉ねぎ:半分
ショウガ:1片
コチュジャン:大さじ4杯
豆板醤:大さじ2杯
BBQソース:適量(大さじ3~4杯)
①肩ロースは、適当な大きさに切りそろえます。
②玉ねぎ、ショウガをすりおろし、他の調味料と混ぜ合わせたソースに漬け込みます。
BBQソースは、味を調えるための物ですから、お好みで適量入れてください。私は、ヨシダソースを使っていますが、焼肉のたれなどでもOKです。
牛肉
牛肉は、やっぱり肉汁が滴るぐらいのミディアムで食べたいものです。味付けも塩・コショウのシンプルなものがおすすめですが、前日から下処理をしておくと、更に美味しく頂けます。
レシピ(リブロース、バラ等500g程度)
塩こうじ:大さじ1杯
日本酒:大さじ2杯
ニンニク:2片(すりおろし)
オリーブオイル:大さじ2~3杯
塩・コショウ:適量
①適当な大きさに切りそろえます。
②塩こうじ、日本酒、ニンニクを混ぜ合わせた調味液に漬け込みます。
③焼く直前に肉を取り出し、漬け込んだソースをとり除き、オリーブオイルを混ぜ合わせます
④塩・コショウをふります。
肉の焼き方
焼く前に重要なことがあります。
肉を常温に戻すことです。
冷蔵庫で冷えた状態のまま焼くと、外側だけ火が通って、中が生焼けになりやすいです。また、牛肉の場合はきれいに火が通らず、レアすぎたり、逆に水分が抜けてぱさぱさになったりします。
キャンプであれば、前日から仕込んだ肉を、保冷剤を入れずに保冷バッグに入れておけば、キャンプ場でBBQを始める頃には常温に戻りますので、工夫してみてください。
多種類の肉を焼くためには、それぞれに合った火加減が必要となります。
そのため、BBQコンロの炭の量を調節して、強火・中火・弱火の3種類を作りましょう。
右から強火・中火・弱火に調節してあり、火加減に合わせて肉を焼く。 |
では、肉の焼き加減をご紹介しましょう。
鶏もも肉:強火
最初から強火で焼いていきます。
強火では、直ぐに焦げてしまいますので、こまめに返して焼いていきます。
三又の串を使うと、切った肉を返しやすいので、おすすめです。
鶏むね肉:中火
鶏むね肉は、強火で焼くと肉が硬くなりがちですので、中火でじっくり表裏を各5分ほど焼きます。
ステンレス串に刺して野菜と一緒に焼くと、箸休めにもなります。
串焼きの場合は、シリコン製のハケがあると便利です。野菜類は、オリーブオイルを塗ることで、スパイス類が付きやすくなり、表面もパリッと焼くことができます。
使用しているのは、田中ケン氏プロデュースのアウトサイドハーブスパイス。 |
牛肉:強火→中火
牛肉は、最初に強火で1~2分ほど焼き、表面に軽く焦げ目を付けます。これによって肉汁を閉じ込めます。
その後、中火で4~5分程度焼きます。
ウェルダンに仕上げるなら10分程度焼けばOKです。
豚肉(肩ロース):中火
豚肉は、下ごしらえでコチュジャンを多く使っているため、強火では焦げてしまいます。
そのため、中火で5~10分ほどかけてじっくり焼いていきます。
豚肉(スペアリブ):弱火
スペアリブは、今回のレシピ中では最も火が通りにくいため、弱火で長時間かけて焼き上げていきます。
10分程度で返していき、全体を30~40分ほどかけて焼き上げます。
焼く時に、アルミホイルで上からフタのように覆うことで、蒸し焼き状態になり、中がよりしっとり焼きあがりますのでおすすめです。
オリジナルレシピを楽しもう
今回ご紹介した物は、一例ですから、自分好みに色々と味を調整してみてください。
最近は、多種多様なアウトドア向けスパイスが発売されていますので、それらを組み合わせて、オリジナルのレシピを考案する楽しみもあります。
より本格的なバーベキューを体験したい場合は、バーベキュー検定に挑戦してみるのもアリですが、気楽に楽しみつつ、自分の味を追求してみてください。