TilleyのケロシンランタンX246Bを入手した経緯は前回書きましたので、今回はTilleyとX246Bについての詳細をご紹介したいと思います。
また、ヴァポライザーのメンテナンスや、点火・消火のコツについてのリポートもお届けします。
Tilleyについて
テリーのロゴ。 出典:Tilley |
テリーは、イギリスのランタンメーカーです。その歴史は、19世紀初頭にJohn Tilleyが「hydro-pneumatic blowpipe」を発明したことに遡ります。1818年頃には、W.H.Tilley社をロンドンに設立し、加圧式ランタンの製造・販売を開始します。
第1次世界大戦の頃、Frederick Tilley(フレデリック テリー)は、加圧式ランタンの燃料としてParaffin(灯油)を使ったランタン(Paraffin Pressure Lamp)の製造へシフトしていきます。これは、当時ランタンの燃料として、アメリカではガソリンが主流なのに対し、イギリスでは灯油が主流になったことにも関係があります。イギリスは、人口密度が高く、火災に対する安全性がより重視されたため、プレヒートが簡単なガソリンより、燃え難く安全性が高い灯油が主流となったのです。
戦後、Tilley社は、ロンドンの北にあるヘンドンに生産工場を設立、1920年には加圧式灯油ランタンの本格的な販売が開始されます。
1924年に販売された TilleyモデルTL10。 出典:Pressure Lamps International |
実際、当時Tilleyのランプは非常な人気で、全英で広く使用されるようになり、更には世界中に輸出され、Tilleyの名が加圧式ランタンの代名詞となるまでになります。
1930年台には、15種類以上の加圧式ランタンに加えて、駅、教会、土木工事、鉱山、軍事用途など様々な業務用ランタンがラインアップされていました。中には、20,000CP(キャンドルパワー)のサーチライトなど、ちょっと今では考えられないほど高出力な製品も製造していました。
20,000CPの光束を実現したとされるSL-1サーチライト。 出典:The Terrence Marsh Lantern Gallery |
余談ですが、現在でも新品で購入可能(実際には品薄で見かけることは殆どありませんが)なVapaluxですが、製造元のWillis&Batesは、Tilleyと関係があります。Willis&Batesは当時プレス製造をメインとしており、Tilleyの下請けとして、主にランタンのタンク部分の製造を担っていました。TilleyとWillis&Batesの関係は1925年から1937年まで続き、その後Tilleyのサプライヤーを離れたWillis&Batesは、Vapaluxブランドでランタンを製造・販売することになります。
さて、第2次世界大戦後も、加圧式灯油ランタンを作り続けいていたTilleyですが、世の中は、急速な電気の普及により、室内用や装飾品としてのランプが電球へと置き換わっていきます。
そんな中、Tilleyは、X246の製造に集中していきます。1946年に、最初のX246がヘンドンの工場で製造され、1960年には北アイルランドのベルファストへ工場を移設、2000年まで製造されていました。
Tilleyのオフィシャルサイトによると、2000年以降は、工場をイギリス南部に移転し、TilleyStormlight(X246Bのこと)を製造していたとされていますが、実質的にはX246Bは製造されていないように思われます。現在、ランタンの在庫は無く、アウトサプライヤー(製造委託会社)によって作られるのを待っているとのことです。
皮肉なことですが、Willis&BatesのVapaluxブランドも、現在は韓国企業に引き継がれ、英国製ではなくなっています。
X246シリーズの歴史
X246シリーズは、大きく分けて、1946年の初期型から始まるヘンドンで製造された物と、1960年(一説には1963年)にベルファストへ工場が移転した以降に製造された物とに分けられます。
外観では見分けがつき難いですが、ベルファスト移転後は、タンクの底に製造年月が刻印されるようになったため、この刻印の有無が1つの目安となります。
X246の初期型は、1946~47年に製造されました。
初期型のX246 出典:The Terrence Marsh Lantern Gallery |
初期型は、フレームが真鍮製で、横方向のグローブサポートリングも、ワイヤーではなくプレート形状のリングになっています。タンクも、俗にポークパイと呼ばれる、円筒形の上にドームが乗っているような独特の形状をしています。一方、ハンドルが短く、熱で持てなくなるという欠点がありました。
その後、ハンドルの長さが調整され、フレームもワイヤーで統一されていきます。
写真は、1946~1950年頃に製造されたモデルです。
出典:The Terrence Marsh Lantern Gallery |
1950年代には、トップフードが現在の形となり、燃料タンクも丸みを帯びていきます。
出典:The Terrence Marsh Lantern Gallery |
ベルファスト移転前後に製造が開始されたX246Aは、1961年から1964年までの短い期間製造されたモデルで、以降はX246Bが2000年まで製造されました(実質的には2000年以前で生産は終了していたと思われる)。
X246A 出典:The Terrence Marsh Lantern Gallery |
X246B |
A型とB型の違いは、フレームがタンクに直接ネジ留めされているのがA、フレームがベースプレートに接続されており、バルブの根本で留められているのがBとなります。
タンクの色については、私の購入した「赤」以外に、ゴールド、シルバー、オレンジ(銅)、イエロー、鏡面メッキなどがあります。特にヘンドンで製造された初期のモデルは、ゴールドが中心なのですが、現在中古市場で流通しているX246は、塗装を剥がして地の金色(真鍮の色)にしているモデルが多いので注意が必要です。
X246Bについて
X246シリーズの構造は非常に単純で、タンクの中心からヴァポライザーが伸びており、それに、バーナー部分をかぶせる構造になっています。
ノズル側を見ると、ヴァポライザーから供給されたガスは、中央のパイプから入って、3本の支柱パイプから入った空気と混ざり、中央パイプ周りのノズルから噴出します。
マントルは、このノズル部分に取り付けるため、マントルの上下をノズルの上部と中央パイプに留める構造になっています。
そのため、燃焼後も、マントルを破壊することなくトップフードを外してメンテナンスを行うことが可能です。
X246の最大のメリットがこのマントル構造で、ヴァポライザーの周囲にマントルがあるため、ペトロマックスに代表される他の加圧式ランタンのように、ヴァポライザーの影が出ないことにあります。
構造が非常に単純なため、メンテナンスが容易というのも大きなメリットです。各パーツのねじ込みは6角ナットではなく、単純なねじ込み式のため、特別な工具を必要とせず、ペンチ1本でメンテナンス可能です。
特殊なネジは一切使用されていないため、レザーマン1本で、完全に分解が可能。 |
ペトロマックスなどは、出力が高く発熱量も多いため、ヴァポライザー回りはかなりの熱対策が施されていますが、X246Bは、ヴァポライザーからバルブ周りまで全てゴムパッキンで接続されています。
ヴァポライザーやバルブ部の間に、黒く見えるのがゴムパッキン。 |
私も、最初はこんなもんで熱に耐えられるのかと心配になったのですが、ヴァポライザーの長さに対して、マントルの位置がかなり上になるため、熱の影響は殆ど受けないようです。光量も、ペトロマックスのHK500や、コールマン639Cに比べれば抑え気味ですから、発熱量が比較的少ないことも影響しているのでしょう。
X246Bは、カタログスペック上のCP(キャンドルパワー)が不明ですが(一説には300CPとも言われるが詳細不明)、350CP相当の639Cに比べてもかなり暗いので、150~200CPぐらいでしょうか。
ただ、これはX246Bの純正マントルの目がかなり粗いことも関係していると思われ、マントルを変更すればもっと明るくなる可能性はあります。
X246B用のマントル(左)。コールマンの639C用マントル(右)に比べてかなり目が粗い。 |
X246の最大の弱点は、ヴァポライザーにあります。
通常のヴァポライザー(ジェネレーター)は、ニップルと本体、クリーンニードル等に分解可能で、清掃すれば半永久的に使うことができます。
ところが、X246Bのヴァポライザーは、ハメ殺しの筒型で、トップのニップルが取り外せないため、内部の清掃が非常に困難です(詳細は後述)。
そのため、ある程度使い込んだら、ヴァポライザーを交換する必要があるのですが、製造が中止されてから20年以上が経つため、純正のヴァポライザーは非常に入手が困難です。
マニュアルを見ると、ヴァポライザーの寿命が500時間となっていますので、1晩5時間使ったとすると、100日間で交換ということになります。年間30泊程度はキャンプに行く私としては、新品でも3年程で寿命が来る計算になります。
X246Bのメンテナンス
私の購入したX246Bは、外観は殆ど傷なども無く、とても状態の良い物でしたが、試しに点火してみると、かなり暗く、ヴァポライザーの清掃が必要な状態でした。
写真では明るく見えるが、実際はかなり暗い。 |
先にも述べた通り、X246Bのヴァポライザーは、ニップル部分が分解できる構造になっていないため、清掃はタイヘンでした。
先ずは、本体からヴァポライザーを外します。
X246Bは、前述の通り普通にネジが切ってあるだけの構造のため、ペンチ1本で着脱可能です。
ヴァポライザーの中には、細いクリーンニードルが入っているだけという単純な構造。
上部のニップルが取れないので、この状態で内部に溜まった煤を根性でとるしかありません。
下部の穴も、非常に小さいため、針金が入る程度です。
仕方が無いので、この小さな穴からベンジン(ホワイトガソリンでも可)を注入して、針金を突っ込んでガシガシやります。
私は、ベンジンの注入に水差しなどを使いましたが、注射器があった方が絶対にラクだと思います。
で、ひたすらガシガシやったら、あとはベンジンで洗浄していきます。ベンジンを注入して、振って出すを10回ほど繰り返すと、この通り。
ニップルの穴は、ペトロマックスのノズルクリーナーを使用して清掃。
クリーンニードルは、耐水ペーパー(1500番)で煤を落とします。
ニードルがかなり短くなっています(それとも元からこの長さ?)。
組み上げて、バルブを閉じると、ギリギリニードルの先がニップルから出ているので、一応クリーニングはできそうですが、あまり期待はできません(-_-;
まあ、現状でやれることはやったので、これで良しとします。
試しに点火してみると、前述の通り、639Cには及びませんが、それなりの明るさを取り戻すことができました。
X246Bのヴァポライザーは、分解清掃が可能な台湾製がAmzonなどを中心に販売されているので(2021年5月現在)、比較的入手は簡単なのですが、価格が7000円以上とかなり高額なため、私は暫くは自分で清掃しながら使っていこうと思っています。
X246Bの点火について
X246Bは、ケロシンランタンですから、点火するためにはプレヒートが必須となります。X246Bには、余熱皿や予熱バーナーが無く、プレヒート用トーチを使います。
私が購入した物には、プレヒート用トーチが付いていませんでしたので、Amazonで別途購入しました。実はTilley社は、このプレヒート用トーチと、トーチを入れる瓶、漏斗のみ現在でも販売しています(苦笑)。ですから、輸入業者がネット販売しており、比較的入手が容易です。
プレヒートにはちょっとしたコツがあります。
先ずは、トーチにアルコールを浸し、ヴァポライザーに装着して、点火します。
トーチのアルコールは、1分程度で燃え尽きるので、完全に無くなる前に、取り外して吹き消します。そのまま燃やしていると、トーチの綿が燃えてしまうので、その前に消火するのがコツです。
やりすぎるとトーチが焦げる。 |
私は、ほったらかしにして、トーチを焦がしてしまいました。まあ、ハリケーンランタンなどに使用される燈心を使えば代用可能ですが、なるだけ焦げないように使った方が長持ちしますので、注意しましょう(笑)。
プレヒートは2分は必要ですから、このトーチを使う場合は、2回プレヒートすれば大丈夫です。
プレヒート中にポンピングを行い、2回目のプレヒート終了間際にバルブを開けば、点火できるのですが、プレヒートが不十分で炎上することもあるため、次のやり方を覚えておくと、より失敗無く点火できます。
先ずは、プレヒートを行います。
プレヒートできたと思ったら、バルブを反時計回りに回して開きます。
続いて5~6回ポンピングすると、ノズルからガスが噴出してマントル上部が白く光ります。
この状態であれば、プレヒート完了ですので、そのままポンピングしていきます。20~30回ほどポンピングすれば、マントル全体が発行してきますので、点火成功です。
プレヒートが十分で無い場合は、マントルが光らないので、それ以上ポンピングせず、一旦バルブを閉じて、プレヒートを続けます。
点灯が成功したら、あとは追加で50~60回ほどポンピングして終了です。
実質タンク容量は700ml程度で、その状態でのポンピング回数は全部で90回が目安となります。
私は、これまで、ペトロマックスやコールマンを使ってきたので、このポンピングから点火の手順が分からず、最初は炎上させてしまいました(苦笑)。
X246Bの消火について
消火は、タンクのポンプを緩めて圧を抜きます。ポンプのネジ部分には、空気抜き用の溝が彫られているので、ポンプを緩めると、タンク内の圧力が抜けて自動的に消火します。
ペトロマックスのHK500であれば、ガス抜き用のバルブがあるのですが、X246Bはコストダウンということもあってか、バルブがありません。というか、給油口もポンプと兼用しているという徹底ぶりには、正直驚かされます。実用上は全く問題無いので、シンプルイズベストと言わんばかりのTilleyの設計には、むしろ好感が持てます。
以上、TilleyのX246Bをご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
X246Bは、加圧式ランタンの構造を極限まで簡素化しており、部品点数的には、合理的工業製品の代表格と言えるコールマンの639Cをしのぎます。また、その結果、シンプルでシンメトリカルに仕上がったデザインは、とても洗練されたものを感じます。
ヴァポライザーを除けば、メンテナンス性も良好で、点火には多少のコツが必要ですが、慣れればそれも問題ありません。
CP(キャンドルパワー)的には、他の製品に劣りますが、むしろテーブルランタンとしても使える適度な光量は、使い方次第といったところでしょうか。
赤いタンクというと、コールマンの200Aが有名ですが、X246Bの赤も温かみがあってとても気に入っています。
それに、トップフードが黒く、タンクが赤い佇まいは、まるで英国陸軍の近衛兵のようで、何とも言えない愛嬌を感じます。
Philip Allfrey, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons 出典:wikiペディア |
このランタンを購入するきっかけについては、前回書いた通りですが、私と同じ昭和48年生まれということもあり、とても愛着があります。
それにしても、次は何を買おうか・・・なんて考えている私。
また、沼が1つ増えてしまいました(苦笑)
【参考文献】
The Terrence Marsh Lantern Gallery