ESEE Knivesは、RATを設立したJeff Randall(ジェフ・ランドール)とMike Perrin(マイク・ぺリン)が立ち上げたナイフブランドです。
RATは、Randall's Adventure and Trainingの略で、ランドールとマイクが設立したアウトドア・サバイバル養成学校です(詳細はRAT-5のページ参照)。
ESEE Knivesについて
1997年にRATを設立したジェフ・ランドールとマイク・ぺリンは、彼らの経験を活かしたナイフをデザインしたいと考え、2002年からOntario Knife Company(オンタリオ)とライセンス契約を結び、RATシリーズを生み出します。ところが、オンタリオの品質に満足できなかったジェフとマイクは、2007年には契約を打ち切り、新たなナイフメーカーを探します。タクティカルナイフで有名なTOPSにも、Laser Strikeというナイフを依頼していましたが、それにも満足できなかった2人は、新たにRATカトラリーを設立。そこで新たにデザインされたナイフが、ESEE Knives(エスイーナイブズ)というブランドネームで販売されることになったのです。
ESEE-6とRAT-5。どちらもランドールの手によってデザインされたナイフ。 |
ESEE(エスイー)のナイフは、RATで培ったその道のプロであるフィールドテスターの手によって使用・評価され、最高品質のナイフに仕上げられているため、世界中の軍隊、警察、レスキュー隊などに採用されています。
ナイフの製造に関しては、Rowen Manufacturing(ローウェンマニュファクチャリング)というアイダホ州アイダホフォールズにあるナイフメーカーに委託されています。ローウェンマニュファクチャリングは、特に炭素鋼の熱処理(焼き入れ・焼き戻し)において高い技術を持っており、高品質なナイフを製造することで定評があります。
実は、TOPSもナイフ製造はローウェンマニュファクチャリングに委託しているため、品質としては同じということになります。特にリネンマイカルタハンドルなどは、ESEEとTOPSで殆ど見分けがつかないぐらいですから、同一工場で製造されているというのも頷けます。
ESEE-6について
【ESEE-6】
全長:298mm
刃長:165mm
刃厚:4.8mm
刃幅:39.6mm
エッジ角:プライマリー6度、セカンダリー30度
重量:340g
鋼材:1095高炭素鋼(テクスチャードパウダーコート)
硬度:HRC55-57
ハンドル材:リネンマイカルタ
グラインド:フルフラットグラインド
ESEE-6は、刃長165mmと大型で、汎用的に使うナイフとしては限界の大きさと言えます。これ以上大きいと、取り回しなどが悪くなり、腰などにぶら下げるのにも邪魔になります。
シースはプラスチック製で、セーフティバンド等はありませんが、軽くカチッと留めるだけで振り回しても抜けません。
金属製のベルトループも、ベルトに差し込むだけで簡単に取り付けができ、使い勝手の良さが光ります。
カイデックス等を含め、この手のプラスチック系シースは、出来が悪いとナイフを抜くのにとんでもなく力が必要だったり、逆にガバガバで危なくて使ってられないものなど多々あるのですが、シースにも手を抜かない点は流石はESEEと言ったところでしょうか。
ブレードにはESEEのロゴが入っており、グリップエンドには、シリアルナンバーが刻印されています。
今回、私はESEE-6を評価するにあたり、大型ナイフとしてどこまで汎用的に使用できるかという点を重視し、調理から薪割まで様々な使い方をしてみました。
評価のために包丁と一緒にしばらく使用した。 |
ESEE-6を使い込んでみた感想
先ず調理についてですが、ナイフの大きさとしては、一般的な三徳包丁に近いサイズですので、キャベツなど大きな野菜も難なくカットすることができます。エッジ角がセカンダリーが30度ですから、包丁に比べれば切れ味は落ちますが、まあそれなりに使えます。玉ねぎのみじん切りも、そこそこできるので、包丁の代用として使えなくはありません。ただ、大根や人参などを輪切りにするのはかなり厳しいです。これは、包丁に比べて刃厚が4.8mmと厚いことに由来します。
ESEE-6の刃厚は、この手のナイフとしては妥当な厚さですが、刃幅を広く取ることでプライマリーエッジも6度と、鋭角なデザインに仕上げてあります。そのため、刃厚の割には食い込みが良く、キャベツなどの葉野菜であれば快適に切ることができます。
しかし、大根や人参などの堅い根野菜は、切るというより割るという感じになるため、どうしても等幅に切るのが難しくなります。勿論、包丁に比べてという前提付きですので、切れなくは無いのですが、おでんを作ろうと大根を切った時、あまりにも残念な切れ方になったので途中で包丁に持ち替えました(笑)。
次に、肉類についてですが、これに関しては良く切れます。鶏肉などもスパッと切れますし、固い牛スジについても包丁と比べてそん色ないぐらい良く切れます。この辺は、炭素鋼らしい切れ味と言え、ローウェンの技術力に裏打ちされた品質の高さが窺えます。
魚を捌くのに使ってみた感じでは、ポイントの刺さりも悪くなく、3枚に下すぐらいはできます。勿論大型のナイフということもあり、出刃包丁などに比べれば取り回しなどに難はありますが、無人島で釣った魚の頭を落として捌くのに不自由はしませんから、サバイバルナイフとしては及第点でしょう(笑)。
調理全般で言うと、野菜のカットについてはやや難ありですが、肉や魚については充分使えるといった感じでしょうか。
さて、キャンプでの利用シーンで言えばこちらの方が本業と言えるバトニングとフェザースティック作りですが、これに関しても充実した性能を発揮してくれます。
先ずはバトニングですが、これはやはり165mmという長い刃長が効いてきます。キャンプ場などで販売している広葉樹の薪は、場合によっては10cmぐらいの太さの物がありますので、刃長が長いESEE-6であれば余裕をもって割ることができます。ただ、刃厚がバークリバーのブラボー(5.5mm)やケイバーのベッカーBK2(約7mm)に比べれば一歩及ばないので、楔のように割り開く力が若干弱いです。とは言え、以前ケヤキのバトニングを試した時には難なく割ることができましたので、充分に使えることは確かです(詳細はこちら)。
一方、フェザースティック作りについては、やっぱり微妙です。フィンガーチョイルもあるので、使い勝手は悪くはないのですが、大型で重いナイフですから、細かい作業には不向きです。
それでも、この程度には仕上げられるので、使えない訳ではありません。個人的には、モーラナイフのロバストなどの方がフェザーを作りやすいと感じますが、ロバストでケヤキをバトニングするのは無謀ですから無いものねだりと言うものでしょう。
ちなみに、この手のサバイバルを意識したナイフにありがちな使い方として、鉈代わりのチョッピングと、スコップ代わりの穴掘りがありますが、これに関してもソツなくこなしてくれます。
刃長が長く、ブレードヘビー寄りに作られていることもあり、高いチョッピング力を発揮してくれます。プライマリーエッジ角が6度ということもあって、木への食い込みも良好ですから、枝払いなどに威力を発揮します。勿論マチェットには及びませんが、山菜取りなどで軽く藪を払うぐらいなら十分でしょう。
また、スコップとしての利用ですが、ブレード幅が広いので、筍を掘ったりするのにも使いやすそうです。但し、如何に高品質な炭素鋼とは言え、土を掘るとエッジが一発でダメになるので、そのへんは覚悟して使ってください(笑)。
以上、様々な用途で使用してみた結果、ESEE-6は包丁から鉈まで広範囲にカバーしているナイフと言えます。勿論、一部不得意な部分はありますが、意外と汎用性が高いことが判りました。
さて、ここからは、切れ味や耐久性など更に掘り下げていきたいと思います。
切れ味
鋼材は1095高炭素鋼で、硬度は若干低めのHRC55-57に仕上げられています。HRC55-57というのは、同じくローウェンで製造されているTOPSのナイフ全般がHRC58に仕上げられているのに比べて低く、どちらかと言うとナイフ全般の中では柔らかい方です。ESEEの前にオンタリオに造らせたRAT-5がHRC57~59ということを考えると、明らかに柔らかいです。
おそらくこれは、一発の切れ味よりもチップ(欠け)などを考慮して、粘りのあるエッジに仕上げるためだと思います。炭素鋼は、硬度が高いほど切れ味と耐摩耗性が上がりますが、その分欠けやすく、こじったりチョッピングしたりする動作に対する耐久性が落ちます。ESEE-6は、汎用性の高い大型ナイフと言うことで、一発の切れ味よりも耐久性を優先した結果、この硬度に落ち着いたのでしょう。
因みに、硬度が若干低いと言っても、しっかり研げばRAT-5と比べても切れ味の差は感じませんので、まあHRCの数ポイント差なんて関係ないのかもしれません(苦笑)。
ちなみに、ESEEのナイフは研ぎも良好ですので、箱出しでも充分な切れ味があります。
ブレード全体には、炭素鋼のサビ対策としてパウダーコーティングが施されています。ESEEというかローウェンのナイフは、コーティング品質も良好で、耐久性もあるため、実用面でも威力を発揮します。きめ細かいパウダーコーティングは、汚れ落ちが良く、油脂なども一拭きで取れるので、調理の場面でも使いやすいです。耐久性に関しても、オンタリオやケイバーよりも良いので、ハードな使用に耐えてくれます(とはいえ限界はあるので、バトニングをガツンガツンやってれば剥げてきますが)。
耐久性
1095高炭素鋼のフルタングですから、サバイバルナイフとしても十分な耐久性があります。硬度が抑えられていることもあり、若干耐摩耗性に劣りますが、研ぎやすい炭素鋼ですから、ガンガン使ってガシガシ研ぐのがこのナイフの正しい使い方でしょう。
エッジの保持力で言うと、バトニングでは、より硬度が高いRAT-5よりも良好に感じるので、スペック上には表れない品質の良さを感じます。使い込んでいくと判るのですが、炭素鋼の割にはロールやチップが少なく、そういう点ではモーラの炭素鋼モデルよりも耐久性があるように感じます。
ちなみに、ESEEのWEBサイトでは、同社のS35VN製ナイフが折れた話が掲載されており、硬度の高い(HRC60)ステンレスナイフは1095高炭素鋼に比べて折れやすいと言っています。このことからも、ESEE-5が耐久性に振って意図的に硬度を落としていることが判ります。
握りやすさ・取り回し
ハンドルは、リネンマイカルタで、表面がザラっとした感触に仕上げられているので、トラクションも良好です。
ハンドルの形状は、両サイドがフラット、指側は中央が膨らんだデザインです。これは、RAT-5なども同様ですので、ジェフ・ランドールの思想が反映されているのでしょう。
以前RAT-5の評価を行ったときにも感じたことですが、ハンドル全体が日本人にとっては少し大きく、バークリバーやファルクニーベンなどに比べて握り難く感じます。ただ、これはおそらく、厚手のグローブなどをした状態での使用を考慮してのことだと思います。
ブレードには、フィンガーチョイルが設けられているので、細かい作業もそれなりにこなせますが、既に述べた通り、フェザースティック作りなどには不向きです。重量バランスはブレードヘビーですがニュートラルに近いので、それほど持ち重りを感じません。但し、取り回しの点では良くても、大型ナイフですからチョッピングでの威力を重視するのであればもっとブレードヘビーの方が良く、意見が分かれる所です。
私としては、もっとブレードヘビーの方が、このナイフの使い方にあっていると思うのですが、ランドールに言わせれば「それならマチェットサイズのJUNGLASを使え」ということなんでしょうね~。
使い勝手
ブレード形状は、ストレートに近いドロップポイントで、ポイントのアールも緩やかなため、刺さりが良いのが特徴です。既に述べたように、調理からバトニングまで、なんでもソツなくこなしてくれるため、これ一本で賄えてしまうほど汎用性は高いナイフです。
私の持っているナイフの中では、バークリバーのブラボー1.5がサイズ的にも近いのですが、汎用性の面では、甲乙つけ難いです。重量的には、ブラボー1.5が270gとやや軽量ですが、ESEE-6も340gと、このサイズのナイフとしては悪くありません。
総評
刃長15cmオーバーの大型ナイフは、実用面では使い難い物が多いのが実情です。特に、ボウイナイフに代表されるハンティングナイフや、ランボーで有名なサバイバルナイフは、キャンプ等での実用性が低く、見掛け倒しなナイフの代表と言えます。
勿論、プロのハンターが使う剣鉈やナイフには、20cmオーバーの大型の物もありますが、普通のアウトドア生活の中では、マグロでも釣り上げない限りそんなデカいナイフは使う場面がありません(笑)。
そういう点では、高い実用性を備えた大型のナイフというのは、実は貴重な存在で、ESEE-6は個人的にはもっと注目されてよいナイフだと思っています。
さて、ESEEは、製品の永久保証を行っているメーカーでもあり、譲渡されても保証は続き、保証書や領収書なども必要ないのが特徴です。そのため、ナイフが壊れたら、ESEEに送付すれば直してくれます。
但し、条件があります。
ESEEのサイトを改めて確認してみると、下記の記載がありました。
ESEEナイフは投げナイフではありません!
当社の製品は、投げナイフよりも高いロックウェル硬度に高められており、投げられた場合に破損する可能性が高く、ユーザーに損害を与えます。
したがって、ESEEナイフを正しく使い、投げないでください。
投げナイフとして、投げられることを意図していないナイフを使用するのはバカげています!
バカはナイフを買わないほうがましだ!
私も、バカにならないように気を付けよう(笑)。
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