キャンプで焚火を楽しむようになると、次に挑戦したくなるのが、マッチやライターなどを使わない火熾しです。昔ながらの火打石と火打金で熾す方法もありますが、ハードルが高いので、ファイヤースターターを使うのが無難です。
今回は、ファイヤースターターについて、私の手持ちのものを中心に、色々とご紹介します。
※ファイヤースチール、フェロセリウム棒、メタルマッチなど、色々な呼び方がありますが、本稿では商品名を除きファイヤースターターに統一します。
ファイヤースターターの種類と材質
ファイヤースターターには、大きく分けて2種類があります。
1つは長方形のマグネシウム合金にフェロセリウム棒(セリウムと鉄の合金)が埋め込まれた物。マグネシウム合金をナイフ等で削り、フェロセリウム棒をストライカーでこすって火花を飛ばして着火します。着火剤として大量のマグネシウム合金を使うため、着火しやすいのが特徴です。
もう一つが、ロッド単体で使う物で、現在の日本ではこちらの方がメジャーになっています。
ロッドに使われている材質としては、マグネシウムとセリウムの2種類があります。いずれも柔らかい金属で、ストライカーで擦ることで大きな火花を飛ばすことができます。マグネシウムの沸点は1,091℃、セリウムの沸点は3,443℃にもなるため、火花の高温で着火が可能となります(あくまで理論値のため、実際の火花の温度は沸点より低い)。ちなみにセリウムは、加圧式ランタンのマントルにも使われている物質で、比較的高価な物質ですから、安価なファイヤースターターはマグネシウムのみの場合が多いです。
最近、ブッシュクラフトのテクニックとして、このファイヤースターターで直接フェザースティックに着火することが紹介されていますが、本来、ロッド単体のファイヤースターターは、麻紐や脱脂綿など引火しやすい火口(ほくち)に着火するのが常道です。フェザースティックに着火したいのであれば、マグネシウムを大量に削って使える角型の物を使うのがベターなのですが、なぜかロッド単体の物で派手に火花を飛ばして着火するのが流行っているようです(苦笑)。
まあ、この傾向は、YouTubeを観ていると世界的な傾向のようなので、文句は言わないでおきましょう(^_^;)。
余談ですが、火打石は、鉄(火打金)と打ち合わせて火花を出しますが、これは鉄が硬い火打石によって削られ、摩擦熱で火花となっています。そのため、火打石同士をぶつけても火花は出ません。
ファイヤースターターの比較
さて、私の手元には、ロッド単体のファイヤースターターが6本あります。
PRIMUS(プリムス) イグニッションスチール
ロッド長:38mm
ロッド径:4.5
材質:不明
今回の中で一番小型のファイヤースターター。イグニッションスチールとあるように、ファイヤースターターと言うよりは、バーナーの点火に使うのが本来の使い方。
LIGHT MY FIRE(ライトマイファイヤー) ファイヤースチール スカウト2.0
ロッド長:43mm
ロッド径:6.5
材質:マグネシウム合金
ファイヤースターターの定番と言えるアイテム。アウトドアショップなどでも流通しており、値段もそこそこ。ストライカーのハンドルには、笛が内蔵されている。
ノーブランド ファイヤースターター
ロッド長:71mm
ロッド径:8mm
材質:マグネシウム合金
Amazonなどで、火吹き棒などのオマケ付きで1000円程度で販売されている物。基本的に中国製で、ストライカーの品質が悪く使い難い。私は、バークリバーのナイフシースに挿すために購入した。
BE-PAL付録 ファイヤースターター
ロッド長:73mm
ロッド径:8mm
材質:不明
アウトドア雑誌「BE-PAL」の、2020年11月号の付録。ノーブランドのファイヤースターター同様中国製で、BE-PALのロゴ入りストライカーも同じため、性能も同等と言える。
Wildo(ウィルドゥ) ファイヤーフラッシュ プロ ラージ
ロッド長:59.5mm
ロッド径:9.5mm
材質:不明
スウェーデンのアウトドアメーカーであるWildoが販売しているファイヤースターター。ハンドルデザインが独特で、持ちやすいだけでなく、紐を絞るとロッドとストライカーが一体化するため、コンパクトに持ち運びできる。私は、コードストッパーを追加して、簡単に留めらえるようにしている。
Bush Craft(ブッシュクラフト) ファイヤースチール
ロッド長:61.5mm
ロッド径:9.5mm
材質:フェロセリウム
様々なブッシュクラフト向けアイテムを販売しているbush craft inc.のオリジナルファイヤースチール。ブッシュクラフトやサバイバルを標榜しているだけあって、高い実用性が特徴。付属のコードは、着火剤として使える550FireCordが織り込まれている。
※値は全て実測値。ロッド径は根本をノギスで計測。
こんなに買う必要は無かったのですが、まあ色々と試しているうちに本数が増えてしまいました(笑)。
折角なので、まずは、この6本を比較・検証してみたいと思います。
着火力ランキング
テストに当たっては、できるだけ正確に調べるため、杉薪を大量に削って火口にしました。フェザースティックを使っても良いのですが、同じ薪から取っても、僅かな削り方の違いにより、着火の難易度にバラつきが出るため、わざと大量の削りカスを作って混ぜることで、できるだけ均一になるようにしました。
麻紐は、ファイヤースターターの火口の定番ですが、着火しやすいため、かえって差が判り難くなるので、今回は使用していません。
先ずは、テストの動画をご覧ください。
各ファイヤースターターは、付属のストライカーを使用しています。動画では詳細を省いていますが、各スターター共、5回着火して着火するまでに擦った回数は以下の通りです。
【着火までにかかった回数ランキング】
1位:Bush Craft ファイヤースチール:10.0
3位:Wildo ファイヤーフラッシュ プロ ラージ:16.6
4位:BE-PAL付録 ファイヤースターター:26.5
5位:ノーブランド ファイヤースターター:36.2
落選:PRIMUS イグニッションスチール:着火せず
ただ、ロッドやストライカーの持ちやすさ、火花の大きさなど、総合的に判断すると以下の通りとなります。
【総合ランキング】
1位:Bush Craft ファイヤースチール
2位:Wildo ファイヤーフラッシュ プロ ラージ
4位:BE-PAL付録 ファイヤースターター
4位:ノーブランド ファイヤースターター
落選:0点 PRIMUS イグニッションスチール
1位は、Bush Craftです。ロッドは、適度な長さがあるため、ストロークがとりやすく、大きな火花を出すことができます。また、一見ショボく見えるストライカーですが、バリが立っており、よく削れます。
2位は僅差でWildoです。ロッドの長さ・径ともBush Craft同等で、使いやすいです。ストライカーは長めで、Bush Craft同様によく削れます。ハンドルのデザインなどはむしろこちらの方が使いやすいので、個人的には1位ですが、ストライカーの性能が僅かにBush Craftの方が上に感じます。それぐらいBush Craftのストライカーは、火花を良く飛ばしてくれます。
3位は、LIGHT MY FIREです。Bush CraftやWildoに比べ小さいですが、ストライカーも良好で、着火力は高いです。惜しむらくは、ロッドのハンドルデザインです。片側だけ大きく窪んでいるため、親指で押さえやすいのですが、ロッドの裏側を使おうとすると指を捻った状態で保持しなければならず、使い難いです。ファイヤースターターは、円柱形ですから、できるだけ満遍なく使っていくのが、長持ちさせる秘訣なのです。ですから、裏側が使い難いという点で減点となります。
4位は同位で、中華製の2つです。ロッドの長さや太さがほぼ同じで、ストライカーの形状も全く同一ですので、使い勝手はほぼ変わりません。ハンドルデザインは、特殊な形状のBE-PAL付録の物の方が持ち難いですが、まあ大した差ではありません。それよりも、ストライカーが酷く、どちらも使い物にならない方が問題です。ロッドを削る鋭いバリが殆ど無く、耐久性も低くてすぐにダメになります。
5位はPRIMUSです。ロッドもストライカーも小さすぎて使いづらい上に、ロッドとストライカーを結んでいるゴムコードが短いため、十分なストローク距離がとれません。そのため、今回のテストでは、ゴムコードを外してテストしたのですが、それでも着火できませんでした。ストライカーのバリもイマイチで、耐久性も良くありません。私はおそらく数百回擦っていると思いますが、ストライカーのバリがかなり丸くなっており、火花が飛びにくいです。元々、小さくてキーホルダーにも使えると思ってこれを購入したのですが、性能的にもキーホルダーにしか使えませんでした(苦笑)。
ファイヤースターターの性能はストライカーで決まる
さて、色々テストしてみたわけですが、結果は初めから判っていました。ぶっちゃけファイヤースターターは、ロッドの材質よりも、ストライカーの性能の方が重要です。どれだけセリウムが多く含まれていても、ストライカーがショボければ、大きな火花は飛びません。いかに効率よくロッドを削り、高い摩擦熱を発生させられるかがポイントになりますので、ストライカーの材質と形状がファイヤースターターの性能に直結します。
バリが大きく硬いBush CraftとWildoのストライカー。 安定した火花を出すことができる。 |
角が立っているのが判る(LIGHT MY FIRE)。 |
中華製のストライカーは、バリが小さく、耐久性も無い。 |
ギザギザが付いているが、バリがつぶれてしまっており、安定した火花が飛ばせない(PRIMUS)。 |
下記の動画を見てもらえれば判るように、1位のBush Craftのストライカーを使えば、4位の中華製ファイヤースターターでも大きな火花を飛ばすことができます。
結論
ファイヤースターターは、ロッドの材質よりも、ストライカーの性能が着火力に直結します。そのため、私も色々と購入するハメになりました。そういう意味では、鉄切り鋸が一番良いストライカーなので、鉄切り鋸の刃を適当な長さにカットした物と、安くても太くて長い中華製ファイヤースターターが最良の組み合わせとなります(笑)。
市販で優秀なストライカーという点では、Bush CraftかWildoということになります。この2つは、大きさも手ごろで、品質も拮抗していますので、どちらを購入しても満足できるはずです。
フェザースティックに、ファイヤースターターで着火するのは、結構難易度が高く、私もなかなか着かないことが多々あります(苦笑)。冒頭でも書きましたが、本来は、麻紐や脱脂綿を火口に使うのが常道ですが、よりブッシュクラフト的な遊びがしたい私は、ガンバってフェザースティックに着火しています。そうすると、ファイヤースターターの僅かな性能差が大きく効いてくるので、拘りの深い逸品を求めてしまうのです(笑)。
ナイフのスパイン(背)で擦るのはやめた方が良い
ファイヤースターターと言えば、ナイフのスパインで擦って派手な火花を飛ばしている写真をネットでよく見かけますが、実はこれはやってはいけません。ファイヤースターターの火花は軽く1,000℃を超えるため、火花の熱でブレードが焼き戻ってしまうからです。ナイフの鋼材は、焼き入れ・焼き戻しという熱処理を行うことで、硬度や靭性が調整されています。ファイヤースターターの高熱がブレードに当たると、折角の熱処理が狂ってしまい、結果としてナイフを痛めてしまうのです。
以上、ファイヤースターターの選び方と注意点でした。