皆さんも普段から100円ショップを活用していると思います。商品ラインアップも豊富で、値段も昔のような100円だけでなく、200円、300円、500円と商品次第で様々です。私は、近所に多数の店舗があることもあって、ダイソーをメインに使っています。
近年、ダイソーはアウトドアグッズにも力を入れており、プラスチック製のトレーやステンレスマグなどの定番商品から、炭や着火剤などのBBQ用品まで、様々なグッズを販売しています。スキレット、ウォータージャグなど、100円ショップの枠を超えた商品もあり、はてはポップアップテントまで売っています(100円ではなく1,000円ですが)。
そのため、テントやシュラフなどの大型のギアを除けば、ダイソーのアウトドアグッズだけでもキャンプが可能なほど充実してきています。
最近は、どう見てもユニフレームのコーヒーバネットにしか見えないような、パクリ商品も出てきていますので、ダイソーのアウトドア関連商品に対する本気度が覗えます。
さて、そんなダイソーのアウトドアグッズですが、今年の6月に大ヒット商品が発売されました。
メスティンです。
アウトドアに興味のある方なら、最早メスティンの名を知らない人はいないでしょう。泣く子も黙る、角形飯盒です。
本家のトランギアのメスティンですら、アウトドアショップで「お一人様1個まで」と書かれていることが未だにあるぐらいですから、それがダイソーでしかも500円で売られていたら、皆が飛びつくのは必定。
「メスティンなんて興味ないわ~」と公言して憚らない私ですら、500円なら買ってみようと思うぐらいですから、瞬く間に売り切れとなってしまいました。私も、ダイソーがメスティンを発売したという話を聞いて、4~5件ハシゴしましたが1つも見つからず、都市伝説なんじゃないかと思っていました。
その後、こんな張り紙を店頭で見つけて、「メスティンはあるんだ!」とパズーが「ラピュタはあるんだ!」と叫んだ時ぐらいの大声を心の中であげていました。
※前回から引き続き「天空の城ラピュタ」ネタで申し訳ございません(^_^;)
ところが、その後、いつまでたってもメスティンと巡り合うことはできず、いつ行ってもこんな張り紙があるばかり。
1家族1個と書かれている訳ですから、きっと入荷はしているのでしょうが、店頭に並んだ瞬間に売れてしまうのでしょう。
この張り紙があるダイソーには、週1~2で行っていますが、未だにメスティンは未確認です。
買えない腹いせで言うわけではありませんが、そんなにメスティンって良いですか?
メスティンは、本家のトランギアも含めアルミニウム製で、アルマイト加工はされていません。アルマイト加工とは、アルミニウムに酸化被膜を作ることで、耐食性と耐摩耗性を向上させる技術です。1929年に日本の理化学研究所で発明され、その後世界中に広がった画期的な技術でもあります。アルミニウムは、お湯を沸かしたりするだけでも酸化被膜ができますが、アルマイト加工に比べて被膜が弱く、耐摩耗性なども劣ります。ですから、アルミ製の一般的なクッカーやコッヘルは、アルマイト加工されているのが殆どで、メスティンのようにアルミニウムのままの商品はむしろ少数派です。
更に言えば、メスティン(mess-tin)は、本来は携帯食器であり、せいぜいお湯を沸かす程度しか想定されていません。ところが、日本ではメスティンでご飯を炊くのが大流行。これは、メスティン=飯盒と翻訳したことから来る誤用です。ここで、飯盒の歴史に簡単に触れておきます。
日本の兵式飯盒のルーツは、明治初期まで遡ります。戊辰戦争以降、廃藩置県に揺れる日本全国を軍事力で制圧する必要性に迫られた明治政府は、薩長を中心とした陸軍を編成、それまで各藩でバラバラだった兵装をフランス式に統一します。それ以降、陸軍はフランスを、海軍はイギリスを手本にするようになります。日本の陸軍が、列強諸国の軍隊と初めて出会ったのは、義和団の乱の時です。清朝末期の1900年、義和団が排外運動を展開し、ヨーロッパ各国に対し宣戦を布告。これを受けて、イギリス、アメリカ、ロシア、フランス、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、イタリア、日本の8か国連合が編成され、義和団の鎮圧に当たります。この時、諸外国の軍隊で使われていたアルミ製のメスキット(mess-kit)=携帯食器に出会った日本陸軍は、この便利な食器に驚きます。当時は、籐や柳で編んだ弁当箱だったため、メスキットのような耐久性は無く、勿論調理もできませんでした。この、調理もできる携帯食器を、日本陸軍も採用し、「飯盒」と名付けたのです。ですので、上から見るとソラマメのような形をした飯盒は、元はヨーロッパ各国の軍隊で使われていた携帯食器をルーツに持つのです。
さて、ヨーロッパの軍隊では、メスティンは、本体でスープ等を温め、蓋は食材を炒めたりするのに使われていました。一方、日本は米が主食ですから、飯盒をご飯を炊くのに使うことになります。日中戦争から太平洋戦争にかけて使われた兵式飯盒は、ご飯を炊くことを意識して、最大4合炊けるように大きさが調整されています。当時の兵隊の1食は2合でしたので、2食分が1度に炊ける計算になります。この兵式飯盒が、戦後一般に広がったため、日本では「飯盒=ご飯を炊くもの」という意識が定着していったのです。
ヨーロッパ人にとっては、メスティン=携帯食器で、その「携帯食器」でご飯を炊きやすくするために日本人が改良したのが「飯盒」です。飯盒のルーツがメスティンですから、メスティンとヨーロッパで呼ばれる物を全て「飯盒」と翻訳してしまいたくなる気持ちは分かりますが、本来であれば、兵式飯盒のような形でない物は全て「携帯食器」と訳すべきなのです。
話を、現在のメスティンに戻しましょう。トランギアのメスティンで有名になった、この角形のアルミ食器は、本来は携帯食器ですから米を炊く道具ではありません。だいたい、角形というのは、炊飯の面では丸形クッカーに比べて不利なのです。炊飯ジャーのお釜がどれも丸形で、底が球状になっているのは、それがお米全体に均一に火が通る構造だからです。ご飯を炊くには、江戸時代からある羽釜の形が一番なんです。
ところが、メスティンは、角形で、しかも長方形ですから、どうしたって熱が均等に伝わらず、理論的には炊きムラができます。ですから、丸型の飯盒やクッカーの方が、ご飯を炊くのに向いています。でも、なぜかみんなメスティンでご飯を炊きたくなるみたいで、美味しく炊く方法の記事や動画がネット上に溢れています。
そんな、メスティンで美味しそうに炊きあがったご飯の写真を見ていて、あることに気が付きました。
コレ、弁当箱に似ているんですね。
ナルホド、私たち日本人が必ず通る、中学・高校で毎日食べた長方形のお弁当が、頭の中に刷り込まれており、メスティン=お弁当=ご飯という発想になるんでしょう。
さて、私がダイソーのメスティンを手に入れられるのはいつになるやら・・・。