最初は、そこまで拘るつもりは無かったのですが、手持ちの砥石で研ぎ上げていくうちに、ピッカピカにしたいという欲望が湧いてきた結果、かえってあれこれ買い足して苦労することになってしまいました・・・。
先ずは、オピネルについての簡単な紹介から始めていきたいと思います。
オピネル(OPINEL)
オピネルは、フランスのサヴォワ地方を発祥とする老舗のナイフメーカーです。刃物職人のジョセフ・オピネルが、折り畳み式ナイフの原型を1890年に完成したことで、以後その折り畳みナイフはオピネルと呼ばれるようになりました。
1897年には、1〜12の番号が付いた一連の12サイズが制作され、現在にも続くラインアップの基礎が出来上がります(現在は、No.1と11が廃版)。
オピネルの番号は、ブレードの長さ(刃長)を表しており、刃長約22cmという特大サイズのNo.13を除けば、番号がほぼ刃長のcmとなっています。
オピネルは、ピカソが愛用したことでも知られており、デザインも含めて世界中から高い評価を得ています。日本では折り畳みナイフ(フォールディングナイフ)というイメージが強いですが、キッチンナイフやテーブルナイフ、ガーデニング用刃物なども手掛ける総合刃物メーカーです。
オピネルの鋼材とブレードについて
ブレードの刻印。上から旧モデルの炭素鋼、現在の炭素鋼、現在のステンレス。 旧モデルでは鋼材についての刻印は無かったが、最近のモデルはCARBONEと刻印されている。INOXはステンレスという意味。 |
オピネルの各ナイフは、カーボンスチール(炭素鋼)とステンレスの2種類がリリースされています。炭素鋼は、XC90という高炭素鋼が使われており、切れ味は抜群ですが、錆びることで有名なモーラナイフの炭素鋼よりも良く錆びます。
一方ステンレスは、Sandvik 12c27 MODという鋼材が使われています。これは、スウェーデンのサンドヴィック社が製造しているステンレス鋼材で、ベースの12c27という鋼材に0.40%のカーボン(炭素)を追加して切れ味を向上させています。12c27は、モーラナイフでも使われているステンレス鋼材で、ナイフ鋼材としては中級クラスの440シリーズに匹敵する性能を持っています。
ブレードについては、コンベックスグラインド(ハマグリ刃)で、エッジ角40度に仕上げられています。オピネルによると、ブレードの硬度は、HRC57~59を目標としているとあります。詳細が明記されていませんが、おそらく炭素鋼・ステンレス鋼いずれも同程度の硬度に調整されているのだと思います。HRC57~59というのは、ナイフとしては標準的な硬度で、炭素鋼の和包丁よりは劣りますが、一般的なステンレス包丁と同程度です。
オピネルNo.9カーボンスチールを研ぐ
今回研ぐのは、私がいくつか所持している中から、No.9のカーボンスチールモデルにしました。理由は特にありませんが、あえて言えば、ブレードが錆びていて一番汚かったからです(笑)。
砥石は、シャプトン刃の黒幕シリーズ。
左から、中砥石の1000番、仕上げ砥石の5000番、鏡面仕上げの12000番の3本です。
以前は、中砥石と仕上げ砥石が張り合わせになった安い砥石を使っていたのですが、最近ナイフを研ぐ機会が増えたため、ネットでも評判の刃の黒幕シリーズを買い揃えました。
刃の黒幕シリーズは、番手が120番から30000番まで全10種類と様々な番手が用意されている合成砥石です。合成砥石とは、アルミナや炭化ケイ素などに結合剤を混ぜて焼き固めた物で、均質の番手で使いやすく、研ぎやすいのが特徴です。合成砥石は、様々なメーカーから発売されていますが、シャプトンの刃の黒幕シリーズは、特に研ぎやすく耐久性が高いと評判です。
使ってみると、研ぎやすさ(良く研げる)は、正直番手次第なので私には良く分かりませんが、安価な合成砥石に比べて水を吸う量が少なく使いやすいです。特に違いを感じるのが固さで、砥石面が固く、高い硬度のステンレスナイフでも安定して研ぐことができます。これまで使っていた砥石は、下手に研ぐとナイフのエッジで砥石面がゴリっと削れてしまうことがありました。
オピネルの研ぎ方ですが、基本的には他のナイフと同様です。但し、オピネルはフルコンベックスのため、ブレード面全体がカーブしています。通常の研ぎであれば、エッジだけ研げば良いのですが、今回は鏡面仕上げを目指すため、ガッツリと全面を磨くことになります。
コンベックスは研ぐのが難しいので、私も普段はゴムシートに耐水ペーパーを張り付けた物を使って研ぐのですが、今回はガッツリ研がないと綺麗にならないので、砥石で研ぎます。
研ぎ方のコツは・・・正直よく分かりません(苦笑)。
とにかく、ブレード面の湾曲を意識しながら、全体の面がまんべんなく研げるように、弱い力で細かく研いでいきました。
研ぐに当たっては、分解してブレードだけ取り出しています。全面を研ぐためにはハンドルが砥石に当たって邪魔だからです。
まずは、1000番で研ぎます。オピネルは、仕上げが良くありませんので、グラインダーの削り跡が結構残っています。これを1000番で落とします。
ざっと、傷などを落とした状態です。1000番ですので、研ぎ面はまだまだ荒く、映り込みは皆無です。
次に5000番で研ぎます。
結構きれいになりました。映り込みもそこそこあります。
但し、若干研ぎムラがあります。実は、コンベックス面に微妙な凹凸があり、どうしても砥石面に当たらない部分があり、そこが研ぎムラとして表れています。
特にやっかいだったのが、オピネルの刻印の裏側です。刻印された時の影響で、反対側のブレードに無数の傷がありました。また、刻印面も僅かに窪んでいるので、まともに砥石が当たりません。そのため、番手を1000番に戻したり、砥石の角の方で研ぐなど、研ぎ方を工夫しながら均一化していきました。
最後に12000番で研ぎます。
この時点で、かなりピカピカになってきました。
娘は、「すごいねーお父さん、鏡みたい!」と言っていましたが、私としてはもっと磨き上げてピッカピカにしたいという欲望が・・・。
そこで取り出したのが、コレ。
バフ用研磨剤です。
わざわざ、鏡面仕上げのためだけに、ホームセンターで買いました。
荒用を使う必要は無いかもと思いながらも、結構研ぎムラがあったので、それを消すには荒用からと思いスタート。
この研磨剤は、フェルト状のバフ向けなのですが、私は自動車用のスポンジバフを使いました。
こちらの方が柔らかくてブレード全体にスポンジが当たるので均一に研げると考えたのですが、これが大間違い!!
スポンジは柔らかすぎて、研磨剤がうまく馴染まず、研ぎに無駄に時間がかかる羽目に。
荒用で2時間弱、仕上げ用で1.5時間ほどかかったのですが、専用バフを使えば2~30分で済むことが後で分かり、全く時間の無駄でした。
研ぎ終わったバフ。原形をとどめないほどボロボロ。
しかも、案の定、荒用研磨剤では12000番よりも目が粗く、返ってブレード面の光沢が落ちてしまいました。
これで、12000番で仕上げた手間が無駄に(T_T)。
まあ、全体を均一にするのには12000番も役に立ったはずと、自分を納得させます(苦笑)。
更に失敗談は続きます。
最終仕上げに、自動車用のソフト99極細コンパウンドを使ったのですが、これが大外れ!!
ブレード面はきれいになったように見えるのですが・・・
全体的に曇りが出ています!
更には、一部にアバタのような小さい窪みが・・・( ;∀;)
そこで思い出したのですが、以前にも、ナイフの錆を取るのにソフト99を使った時もブレード面が微妙に曇っていました。その時は、錆とりメインだったのであまり気にしなかったのですが、確かにそのナイフも炭素鋼でした。
どうやら、ソフト99のコンパウンドは炭素鋼ナイフとの相性は悪いようです。
アバタは、コンパウンドの研磨粒子が、ブレード面の僅かな穴にはまってこすられることで、余計に穴を広げてしまったのではと想像。
こうなったら、手は一つ。
ちゃんとしたバフで、もう一度磨き上げます。
始めからこうしておけば、4時間以上の時間を無駄にせずに済みましたが、後の祭りです。
仮組した時に、ハンドルと擦れてブレード側に傷が付いてしまったので、これも修復しておきます。
ハンドルをカッターナイフで削り、サンドペーパーで均しておきます。
仮組して、ブレードが擦れないことを確認。
最後は、不織布に研磨剤を塗り込んで手磨き。適当な不織布が無かったので、マスクを利用。コロナ禍で貴重なマスクを、ナイフ研ぎに消費してしまいました(笑)
仕上がりは、まあ、まずまずの出来です。
ここまでピカピカになれば満足です(むしろ、これ以上やるのは面倒)。
手こずった、刻印裏もきれいに仕上がりました。
一部に、小さな窪みが残っていますが、アバタもエクボです(笑)。
スパイン側は、研磨が甘いですが、それでもこれだけ輝いていれば十分でしょう。
各段階を比べてみると、以下の通りです。
コンパウンド(極細)のところで、曇りが出ているのが良く分かります((+_+))
結局、砥石に1日、荒用の研磨剤に1日、仕上げ用からコンパウンド(失敗)に1日、再仕上げに1日と、4日間もかけてしまいました。
まあ、暇つぶしには良かったですが、もう一本と言われると、丁重にお断りしたい気分です(笑)。
そうそう、このナイフ、研磨剤で削りまくったので、刃が完全に落ちています。元々、砥石で研ぎ始める前に、けが防止のためにエッジを荒砥で軽く落としていたのですが、度重なる研磨のおかげでエッジがきれいに丸くなっています。
まあ、このオピネルNo.9が無くても、家には山ほどナイフがあるので、これは観賞用としてこのままにしておきます。
万が一、刃付けの時に研ぎそこなって、傷でも付けたら全部研ぎ直しですから・・・。
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