賢い冬キャンプのシュラフ選び

2019年12月3日

雪中キャンプ

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冬キャン、特に雪中キャンプでは、寝る時が一番工夫がいります。日中は、薪ストーブや高出力の石油ストーブを使えば暖はとれるのですが、就寝時は、薪ストーブでは1~2時間で燃え尽きますし、石油ストーブは一酸化炭素中毒などのリスクがあるので常時換気が必要となります。
そのため、快適に眠るためには、シュラフについて考える必用があります。
ではまず、どの程度のシュラフが必用か考えてみましょう。

左からナンガダウンバッグ(-4)、ナンガオーロラライト600DX(-11)、コールマンキッズマミー(-1)、コールマンアドベンチャースリーピングバッグ(-5)。
カッコ内はいずれも下限温度。性能を考慮するとオーロラライト600DXのコンパクトさが際立つが、アドベンチャースリーピングバッグ(2個セットで1万以下)の10倍以上の値段!!


雪中キャンプでの最低気温は、だいたい東北・北陸地方で-5~-10度、寒気が厳しい時で-15度ぐらいまで下がります。全く暖房が無い状態では、テント内の気温は外と数度しか変わらないので、-2~-7度ぐらい(厳しい時で-12度程度)と考えておきます。
この条件をクリアするとなると、就寝時にそれなりに着込むとしても、-5~-10度程度は対応しているシュラフが必用となります。
シュラフには、たいてい下限温度が設定されています。この下限温度ですが、メーカーにもよりますが、ざっくり言うと寒いけど死ぬことは無い温度ということになります。逆に言うと、下限温度以下だとしりませんよという温度です。もちろん、衣服は充分着込んだ状態です。私の経験では、下限温度近くでは、以下の服装が必要となります。

上半身:長袖(発熱素材)+ネルシャツ+フリース
下半身:靴下(ウール混紡)+長下着(発熱素材)+フリースズボン

これでも寒い場合は、フリースの下にインナー用ダウンを着込んだり、防寒ズボンを履いたりします。

シュラフの温度については、より客観的な数値で表しているEN(ヨーロピアン・ノーム)という値があります。

EN(ヨーロピアン・ノーム)とは
EN(ヨーロピアン・ノーム)とは、EU諸国における統一規格として制定されている規格の総称で、ヨーロピアン・スタンダードとも呼ばれます。スリーピングバックに関する温度表記についてはEN13537で算出が定義されています。今までは各メーカーが独自の方法で算出されていた使用温度を、同一基準で示しています。検査は認定された第三者機関が行う公平なもので、各メーカーの独自基準に基づく使用温度表示とは一線を画すものといえます。

EN 13537 の検査方法
温度センサーが装備されたマネキンに長袖と足首までアンダーウエアを着せ、スリーピングバックに寝かせてキャンプ用のマットレスの上にのせます。マネキンの内側5箇所の温度が測定され、放熱の度合いを計測します。計測された温度と実験室の気温を計算式にあてはめて値を算出します。スリーピングバックの保温性能は単純な中綿の量だけでなく、布地の種類や厚み・ジッパー等にも影響を受けるため、テストではこれらを総合的に判断します。

出典:NANGA

シュラフの快適温度や下限温度などについては、各メーカーの独自基準であるため、これまでは正確な比較が出来なかったのですが、ENによってメーカー間の客観的な比較が可能となりました。ただ、ENも完ぺきではなく、EU標準ですので、日本人との体格差や寒さに対する耐久力が違うため、EN表記の温度は日本人にとっては体感的には寒く感じますので、ENの温度表記より+2~5度ぐらいで考えておいた方が良いでしょう。
ENは、日本メーカーでは、ナンガやモンベルが対応しています。

さて、温度表記の話はこれぐらいにして、実際に冬キャンでどれぐらいのシェラフが必用かを考えていきます。

冬キャンプで重要な最低気温について
基本的に最低気温は、夜中から明け方にかけての気温となります。ですので、キャンプ場の最低気温=シュラフの対応温度ということになります。
下記は、河口湖の2000年~2018年の最低気温の平均値です。

最低気温
1月-6.5
2月-6.4
3月0
4月5.9
5月9.5
6月14
7月19.3
8月19.2
9月15.3
10月9
11月3.6
12月-1.5
※出典:気象庁

12月-1.5度、1月-6.5度、2月-6.4度とマイナスが目立ちます。3月でようやく0度です。
この季節にキャンプをするためには、下限温度が-5~-7度ぐらいは必用で、-10ぐらいあると安心ということになります。

更に寒い地域を見てみましょう。雪中キャンプでも有名な北軽井沢スウィートグラスの近く、群馬県田代の2018年の最低気温は、以下の通りです。

最低気温
1月-13.9
2月-15.2
3月-10.5
4月-2.7
5月0.3
6月5.2
7月14
8月4.7
9月8.2
10月-0.5
11月-5.2
12月-10.3
※出典:気象庁

11月で-5.2度、最も寒い2月では-15.2度にもなることが分かります。ここまで来ると、-10度対応のシェラフでも何らかの暖房対策を行っておかないと厳しいことが分かります。

以上の通り、河口湖などの標高の低い地域であれば下限温度-5度、群馬県田代などの高原地域では、-10度以上に対応する必用があることが分かります。
シュラフの下限温度については、ナンガのオーロラライト600DXで-11度、750DXで-16度です。フラッグシップの900SPDXであれば驚異の-27度となりますが、北海道で雪中キャンプをするので無ければ、流石にここまでは必用無いと思います。


おすすめのシュラフ

ナンガ オーロラライト

オーロラライトシリーズは、ナンガのフラッグシップモデル。表地に防水処理が施されたナンガオリジナルのオーロラテックスという素材を使用しているため、シュラフカバーが不要。オーロラテックスは、多孔ポリウレタン防水コーティングが施された素材で、結露などの水滴は通さず、内部からの水蒸気については優れた透湿性を発揮する。
縫製は、ボックスキルトと呼ばれるボックス同士が支えあう構造で、ダウンのロフトを最大限に引き出し、片寄りを抑えることで放熱量を軽減させ、効率的に保温することができる。

オーロラライト600DX
快適使用温度:-4℃
下限温度:-11℃
総重量:約1,050g



オーロラライト750DX
快適使用温度:-8℃
下限温度:-16℃
総重量:約1,200g




ナンガ ダウンバッグ

コストパフォーマンスを追求したモデル。とは言え、1100から600まではボックスキルトになっているなど、基本的な部分は押さえられている。450以下はシングルキルト構造(表地と裏地を直接縫い合わせている)で、縫い目部分のダウンが薄くなるため、膝などが寒く感じるので注意が必要。

ダウンバッグ 600
下限温度:-6℃
総重量:約1,250g



ダウンバッグ 900
下限温度:-12℃
総重量:約1,550g




モンベル ダウンハガー650

モンベルのシュラフは、登山用の超軽量モデルからキャンプ用の安価な物まで、様々なモデルが用意されている。その中でもダウンハガーは、性能と価格のマッチングがオートキャンプ向けと言えるモデル。スーパースパイラルストレッチシステムにより、最大135%の伸縮性を誇るため、寝返りなども打ちやすい。縫製はオーロラライトと同様ボックス状で、保温性を高めてある。
上位モデルとしては、表地にPOLKATEXという撥水加工を施しているダウンハガー800がある。

モンベル ダウンハガー650#1
快適使用温度:-4℃
下限温度:-10℃
総重量:1,236g



モンベル ダウンハガー650#0
快適使用温度:-7℃
下限温度:-14℃
総重量:1,485g




モンベル バロウバック

ダウンではなくポリエステルを使用した安価なモデル。スーパースパイラルストレッチシステムを搭載しているので寝心地は上位モデルに劣らない。大きさはそれなりになるため、多人数だと車載スペースの問題が出てくる。

バロウバック#1
快適使用温度:-3℃
下限温度:-9℃
総重量:1,680g



バロウバック#0
快適使用温度:-7℃
下限温度:-14℃
総重量:2,040g




イスカ エア630EX

イスカは、ナンガやモンベルと並ぶシュラフメーカー。エアシリーズは、そんなイスカを代表するモデル。そんなエアシリーズの中でもエア630EXは、冬キャンプでの下限温度と各種スペックがベストバランスなモデル。最も熱効率に優れた台形ボックス構造に最高品質の800フィルパワーのホワイトグースダウンを630g使用。
表地には、超撥水性能を持ち、引き裂き強度、耐摩耗性、耐熱性にも優れた、耐久性のあるナイロン66を使用。

下限温度:-15℃
総重量:1,020g




イスカ アルファライト1000EX

素材にポリエステルを使用することでコストを抑えたモデル。MICRO LITEというイスカオリジナルのマイクロ繊維と中空ポリエステルを組み合わせることで、一般的な化繊モデルよりもコンパクト化している。

下限温度:-12℃
総重量:1,720g




コールマン マルチレイヤースリーピングバッグ

3枚の封筒型シュラフで構成されている、4シーズン対応シュラフ。横幅が900mmと大型なため、大柄な男性でもゆったりと寝られる。素材はポリエステルで、価格も他社に比べて安価。収納時のサイズが約52×29×38cmと巨大なことが最大の欠点。
米軍のモジュラーシステムにヒントを得たと思われる。
コールマンのシュラフは、快適温度が実質上の下限温度と考えた方が良い。

快適使用温度:-5℃
下限温度:-11℃
総重量:約4,900g




【参考】米軍 モジュラーシステム

米国軍にも使用されるモジュール式のシュラフ。軍用と言うことで、大きさも重さもヘビー級。下限温度は驚異の-34.4度 。収納時のサイズは直径約35cm長さ約70cmとテント並みの大きさ。




更に一工夫して快適に

以上、各社のシュラフをピックアップしましたが、基本的には、価格が高いほどコンパクトで保温性が高いです。米軍のモジュラーシステムはあくまで参考までに挙げていますが、これぐらいの大きさになれば、雪上でも寝られるぐらいの性能があります(笑)。

さて、ここで改めて整理してみると、先ず一番重要なのが、最低気温についてどの程度まで対応しておくかということです。最低でも-5度程度は必要ですし、-15度まで対応できれば、高地での雪中キャンプにも対応可能です。
しかし、ファミリーキャンプなどであれば人数分のシュラフを揃えるのは、かなりの出費となります。できれば、リーズナブルなシュラフで対応したい所でしょうから、既に持っているシュラフにシュラフを重ねて使用するという方法もあります。
例えば、コールマンのキッズマミーC4は実質下限温度4度ですが、これにコールマンのアドベンチャースリーピングバッグC0(実質下限温度0度)を組み合わせた所、-5度以下のふもとっぱらキャンプ場でも娘は朝までぐっすり寝ていました。

※コールマンのシュラフは、一般的にC×と書かれている数値が実際の下限温度と考えてよい。スペック表記上の下限温度付近では、かなり着込んでいても寒くて厳しい。




アドベンチャースリーピングバッグは、単体で使うと横幅が75cmと少し窮屈なため、男性には横幅84cmの下記のものがおすすめです。




また、この時私は、下限温度-4度のナンガのダウンバッグを使っていましたが、特に太ももや膝が寒かったので、上にブランケットを掛けることで寒さをしのぎました。このように、手持ちのシュラフの下限温度近くの場合は、普段自宅で使っている毛布などを使うことでも対応可能です。


3シーズン対応のファミリー2in1 C5をお持ちの方は、これに下限温度0度程度のシュラフを追加すれば、かなり快適に眠ることができます。





一方、石油ストーブを使うことで、幕内温度を外気より5~15度程度は上げることができますので、暖房器具との組み合わせも考えると良いです。冒頭でも書いた通り換気には注意が必要ですが、-10度のキャンプ場でも、高出力の石油ストーブを使用すれば外気温+10度以上はいくので、下限温度0度程度のシュラフでも過ごすことができます。

ストーブについては詳しくはこちら

-10度以下の場合はホットカーペットを活用しよう

特に雪中キャンプなどで-10度近くになると、重ね着での対応にも限界がありますので、ホットカーペットや電気毛布などを使用します。これらは、直接体を暖めることができるので、両方の組み合わせで体感温度+10~20度ぐらいの効果があります。
この場合は、下限温度0~5度程度のシュラフでも、上に毛布を掛ければとても暖かく過ごすことができます。私は、インフレータマットの上にホットカーペット+専用マットを敷いて直接寝ています。上は、コールマンのアドベンチャースリーピングバッグC0を開いて2重にして掛布団替わりにすることで、-10度近い雪中キャンプを楽しんでいます。



最近のホットカーペットは、1畳から3畳まで、各種大きさが用意されています。ソロであれば1畳で十分ですし、ファミリーであれば2畳か、1.5畳を2枚など、人数に合わせて色々選ぶことができます。

シュラフカバーは必要?

ダウン素材のシュラフには、シュラフカバーが必要と良く言われますが、私はシュラフカバー不要派です。
シュラフカバーとは、シュラフを結露などの濡れから守るためのカバーです。ゴアテックスなどの、撥水・防水素材でできており、シュラフを中に入れて使用します。なぜ防水カバーが必要かと言うと、ダウンは、細かい羽毛が空気を含むことで保温しているため、羽毛が濡れて空気を含むことができなくなるのを防ぐためです。
特に冬山登山では、テントも小さく、結露した水滴がシュラフに付く恐れがあるため、シュラフカバーが使用されています。ところが、キャンプでは、必ずしも必要ではありません。ファミリーキャンプなどで使用される、大型のドーム型やツールーム型テントであれば、ダブルウォール構造になっているため、室内の結露はそれほど酷くありません。また、テントが大型であれば室内が広いため、結露したテント幕にシュラフがあたる可能性も低いので、シュラフカバーを使うほどではありません。結露した水が溜まって、水たまりができるぐらいの酷い状態でない限り、シュラフカバーは不要です。
当然、テントがコットンやTC(コットンと化繊の混紡)の場合は、殆ど結露しないため、シュラフカバーは不要です。
一方、シュラフカバー自体も内部で結露する場合があります。体や呼吸から出る水分は、シュラフから外へ排出されますが、シュラフカバーは防水素材ですので、透湿性が低いとシュラフとカバーの間で結露が発生し、かえってシュラフを濡らしてしまうことになります。ゴアテックスなどの高性能な透湿素材であればあまり心配ありませんが、安価なものは結露が問題になりますので、使わない方が良いです。
但し、ソロキャンプなどで、山岳テントを使用している場合は、シュラフカバーがあった方が良いかもしれません。1泊2日程度であれば、結露でシュラフが使用不能になることは無いと思いますので、無しで試してみて結露が酷いようでしたら改めて購入すれば良いと思います。


以上、様々なシュラフを紹介しましたが、暖かいシュラフを用意して冬キャンを楽しんで頂ければ幸いです。

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