ブッシュクラフトとは、簡単に言ってしまうと「森や山の中で必要最低限の道具で生活すること」です。ブッシュクラフト株式会社の代表であり、日本ブッシュクラフト協会の代表理事でもある相馬拓也氏の言葉を借りれば、「より自然と一体になれるアウトドアのスタイル」であり「大自然と共生していた先人たちが持っていた『森と生きる知恵』を思い出させてくれる古くて新しいスタイル」ということになります。
更に、相馬氏の言葉をご紹介しましょう。
ブッシュクラフトの技術は、ナイフワークとファイヤーメイキング(火おこし)から始まります。
あなたも、一本のナイフと火打石を持ち、森でコーヒーでも淹れてみませんか?
先人は、ナイフ、ノコギリ、斧、火打石、などの限られた道具だけを持ち、自然の中へと旅立ちます。
良い場所を見つけると、その場の材料で小屋を建て、火打石で焚き火をし、水と食料を現地で調達し、足りないものは木工で作り出しました。
~中略~
自然にあるものを活用し、自然と一体になって楽しむことこそ、アウトドアであると、私は思います。
大自然の中、大音量で音楽を流す。山を歩きながらイヤホンを装着している。自分たちの痕跡を残して帰る。ギアの軽さばかり求める。ストーブが無ければ食事すら作れない。
~中略~
それが常時絶対では、人は弱くなる一方です。
『自然の楽しみ方が不自然』になっているように思えてなりません。
人にとって自然は『恩恵99% 驚異1%』なのです。ただ、恩恵を活かせないから、驚異しか目に映らない。
便利になりすぎたせいで、スキルや知恵がなくなり、恩恵を忘れ、道具が無ければ驚異しか感じない。
この負のスパイラルから抜け出すには、『森と生きる知恵』を、ブッシュクラフトを通じて得ることです。
引用:ブッシュクラフトとは(ブッシュクラフト株式会社)
キャンプ沼にハマりきっている私にとって、『自然の楽しみ方が不自然』というくだりは耳の痛い話であります。
話は変わりますが、昭和50年代に小学校に通っていた私は、学校で肥後守を全員に配られた記憶があります。肥後守で鉛筆を削ったり、簡単な工作をしたりしたことを覚えてる方も多いのではないでしょうか。ですが、何時の頃からか、肥後守が学校で配られなくなったように思います。鉛筆削りやシャープペンシルなどが普及したことも関係しているかもしれませんが、やはりナイフは危ない、刃物=危険というイメージから、刃物を避けるようになったのだと思います。確かに、肥後守は刃物ですので、使い方を間違えれば手を切ったりして怪我をすることになりますが、だからと言って刃物に触れずに一生を過ごすというのも無理があります。料理をするのには包丁が欠かせませんし、段ボールなどを切って工作するためにはカッターナイフなどを使いこなす必要があります。要は、使い方を十分に教え、適正に管理すれば危険は限りなく小さくなるということです。
ここで、私の小学生の娘の装備をご紹介します。
- ビクトリノックス/トラベラー
- モーラナイフ/コンパニオンヘビーデューティーMG
- コールマン/パックアウェイ ソロクッカーセット
- ソト/ウインドマスターSOD-310
- ソト/スライドガストーチST-480
- ソト/ミニ焚き火台ヘキサST-942
- ノーブランド/マグライト(単4×3)
ナイフは基本中の基本ですので、小学3年頃にはビクトリノックスを与えています。
それに慣れたら、コンパニオンヘビーデューティーMGを与えて、木の削り方などを教えていきました。
パックアウェイ ソロクッカーセットとウインドマスターSOD-310は、私が使っていたものを奪われました(笑)。
最近は、私のハスクバーナのキャンプ用斧を狙っています。「何で欲しいの?」と聞くと「だって、かっこいいやん!」だそうです。娘もどうやら、キャンプ沼にハマりつつあるようです・・・。
さて、上記の装備は、キャンプ道具として揃えたものですが、ブッシュクラフトにもそのまま使えるものがあります。切る・削るなどの役割を担う「ナイフ」、調理や焚火に必要な「焚火台」、調理・食事に必要な「クッカー」という、ブッシュクラフトに必要となる基本装備を網羅しています。
もちろん、本格的なブッシュクラフトを行うには十分ではありませんが、その入り口としてスキルを付けるには丁度良い組み合わせだと思っています。切る、火を操る、調理するというのが出来るようになれば、普段の生活だけでなく、災害などのいざと言う時にも役に立ちます。私の娘にも、キャンプ場でのブッシュクラフト体験を通じて、『森と生きる知恵』を身に付けてほしいと思っています。
前置きが長くなりましたが、キャンプ場で実践できるブッシュクラフトスキルをご紹介したいと思います。
ポットハンガーを作る
ブッシュクラフトの「クラフト」は、工作という意味があります。木を使って、かまどやシェルターなど、様々なものを作ることができますが、先ずは簡単に作れるポットハンガーをご紹介します。ポットハンガーにもさまざまな種類がありますが、今回は地面に差し込んで立てるタイプのものになります。
材料は、木の枝3本です。木の枝は、キャンプ場の近辺などで落ちている物や、立ち枯れた木などを使います。森の中に落ちている木は、朽ちて脆くなっている場合があるので、強度に注意してください。特に、白いカビやキノコなどの菌類が生えている物は、かなり朽ちているので使えないと思った方が良いです。
ちなみに、流木は意外と強度があるので、大きめの川や湖畔で探してみてください。
作り方は、2本の木を地面に突き刺して、その間に木を渡すだけです。渡した木に直接ポットをかけても良いですし、ロープで火との距離を調節できるようにするのも良いです。
適当な木の枝が3本揃ったら、適当な長さに切ります。ナイフでチョッピングして折っても良いですが、20cm前後の折り畳みのこぎりがあると便利です。
折り畳みのこぎりは、ホームセンターなどでも売っているので、簡単に入手できます。
地面に突き刺す木は、先端をナイフで削って尖らせておくと刺さりが良いです。刺さりが悪い場合や、強度が心配な場合は、ペグを打ち込んでロープで固定すると良いです。
ソリッドステークの50cmがあれば、30cm打ち込んで、残りの20cmにロープで木を固定すれば倒れる心配がなく安全です。写真では1か所だけ電車結び(ユニノット)で留めていますが、上下2か所で固定すると更に強くなります。
2股に分かれた枝木であれば、股の部分に木を渡せますが、無ければロープでくくりつけます。
ブッシュクラフトのテクニックとして、ロープで様々な物をくくって組み立てるので、1.5~2mほどのパラコードをいくつか用意しておくと良いです。
パラコードは、パラシュートに使用されるロープのことで、強度があり、絡まり難くて扱いやすいので、ブッシュクラフトに向いています。私は、米国のアトウッド・ロープ社の7Strand 550Lbsパラコードを使用しています。7本の撚り糸が入ったパラコードで、耐荷重250kgありますので、様々な使い方ができて便利です。
直火ができなくても、木のポットハンガーを作るだけで、雰囲気も違ってくるのでお勧めです。
火を熾す
焚火台は、空気の通りを考慮した設計になっているため、適当に置いても簡単に燃えてくれますが、直火の場合は、色々と工夫が必要となります。焚火台を使った火熾しについては、こちらにまとめてあるので参考にしてください。
直火の場合は、石でかまどを作る方法がポピュラーですが、手頃な石を見つけるのが意外と難しいですので、無理にかまどを作らなくても良いです。かまどを作ると熱効率が良くなるので、調理には適していますが、薪だけでも十分できます。
焚火を行う場所は、地面がむき出しの場所で、落ち葉などが堆積していない場所を選んでください。また、焚火を行う場所の半径2m以内に木が生えていないことを確認してください。火事の原因になるだけでなく、木々を痛めることになりますので注意してください。
場所が決まったら、まず、地面に4~5本の薪を並べて台にします。こうすることで、地面からの湿気を防ぎ、空気の通りが良くなるので火が着きやすくなります。
次に焚きつけを置きます。今回はビンの包み紙を使いました。
焚きつけの上に小枝を乗せます。小枝が無い場合は、薪を小割にしてフェザースティックを作ります(詳細はこちら)
薪を数本乗せて完成。
土台にした薪は、時間が立てば順次燃えますので、気にしなくても大丈夫です。土台は、最初の火熾しをしやすくするための物ですので、そのまま燃やしてしまってください。
直火は、片付けの方が大切です。キャンプ場ですので、次の方が気持ちよく使えるようにするのが大切です。
綺麗に燃やしてしまえば、炭も残りませんので、灰を集めて処理するだけです。灰の処理はキャンプ場の説明に従って、きれいに片づけましょう。
近年、一部のマナーの悪いキャンパーのせいで、次々と直火禁止になってきていますので、マナーとルールを必ず守ってください。
2019年に直火禁止になったキャンプ場
キャンプラビットhttp://www.camp-rabbit.com/sub/op.html
道志の森キャンプ場
http://doshinomori.jp/05topic.html
焚火で調理する
火を熾すことができれば、今度は焚火での調理に挑戦してみましょう。ポイントを押さえれば、焚火でも簡単に調理ができます。ポイントといっても、
予め太めの薪を多めに燃やして、熾火を作っておく
これだけです。熾火は、薪が燃えて炭のような状態になったものです。炎が上がっている方が火力が高そうに見えますが、この状態では、薪に含まれる水分や繊維などを燃やすことにエネルギーが使われるため、意外と全体の温度が上がらないのです。また、薪全体の火の付き具合にばらつきがあるため、火力が一定せず、焦がしたりする原因にもなります。
熾火の状態は、薪全体が炭化して炭と同じ状態になっているため、一番温度が高くなります。また、煤がほぼ出ないため、クッカーなどが真っ黒にならない点もメリットです。
熾火での調理は、バーナーのように火力を直接コントロールすることができないため、火との距離を調整しながら調理します。写真のように、ロープでポットなどを吊るす場合は、ロープに結び目を2つ以上作っておけば、吊るす高さが調整できて便利です。
焚火台を使っている場合は、熾火の位置を調整して、火力の強弱を作るとより便利に調整が可能です。
では、具体的な手順をご紹介します。
焚火台に薪をくべます。市販の中割の薪3~6本を目安にしてください。できるだけ同時に一気に燃えるようにすると、短時間で多くの熾火が作れます。写真は、中割の薪を4本くべて燃やしている所です。
薪から殆ど炎が出なくなった状態。これが熾火です。火力的には、この状態が一番高火力ですので、調理にも向いています。
ロストルを乗せて、調理の準備にかかります。ロストルを置く前に、火ばさみで熾火の位置を調整して、高火力な部分と低火力な部分を作っておくと、強火と弱火ができるので便利です。
スキレットなどを使って調理します。火力が強すぎると厚切りベーコンなどは一発で焦げますので、注意しましょう。
熾火は量にもよりますが、30分から1時間程度で燃え尽きるので、長時間調理する場合は、端から薪を追加していくことになります。熾火の量を一定にすることを意識しながら、1本づつ中~大割の薪を追加していくのがコツです。欲張って多く入れると、薪が一気に燃え上がって火力が上がってしまうので注意しましょう。
あと、調理に使うクッカー類は、取っ手にプラスチックなどが使われているものは溶けたりするので、スキレットやダッチオーブンの方がベターです。
火熾しから熾火を作って調理できるようになるまで、だいたい30分~1時間程度かかりますが、このひと手間を楽しめるようになれば、ブッシュクラフトを満喫することができるでしょう。
富士山を見ながら、ベーコンエッグとコーヒーの朝食。 至福の一時。 |
以上、キャンプ場でできるブッシュクラフトをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。次回のキャンプで、1つでも試していただければ幸いです。
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