実用ナイフだったのが、美術作品並みの価値で取引されているナイフもあります。ロバート・ウォルドーフ・ラブレス(Robert Waldorf Loveless)は、アメリカのナイフ職人で、ラブレスという有名なナイフメーカーを起こした人物です。2010年に亡くなるまで、アウトドアやハンティング向けの実用品としてのナイフ作りにこだわり続けた人で、ヘミングウェイを始めとする多くの愛好家を生み出しました。日本にもなじみの深い人物で、日本刀の鍛造技術を高く評価しており、何度も来日しています。そんな彼の作ったナイフは、コレクターの間でも人気で、オリジナルの刻印がブレードに入ったものなどは、ヤフオクなどで数十万以上、時には数百万などという高値で取引されています。ラブレス自身は、実用性にこだわっており、自分の名前がブランド化されることを嫌っていたことを考えると、皮肉な話です。
さて、実用一辺倒の私にとっては、高価なラブレスなど無用ですが(と言うか高くて買えない)、そんな私でも、実用よりもナイフの佇まいに拘って使う時があります。
今回ご紹介する芦刃物製作所のLOGナイフは、そんな拘りの1本です。
キャンプでオードブルを盛り合わせてワインをちびちびとやる時、まな板の上のチーズを切るのに、ファルクニーベンのF1やスパイダルコのデリカのような実用一辺倒のナイフでは、いささか興が乗りません。そんな時には、このLOGナイフを持ち出します。
LOGナイフは、芦刃物製作所という大阪府堺市の包丁メーカーが製作したナイフです。堺市は、岐阜県関市や福井県越前市、新潟県燕三条などに並ぶ刃物生産地です。1543年の鉄砲伝来により、全国でもいち早く鉄砲生産が盛んになり、織田信長が堺の鍛冶衆に大量の鉄砲を作らせたことなどからも解るとおり、堺は古くから金属製品に関する高い製造技術をもっていました。江戸時代に入り、鉄砲製造が下火になるに従い、刃物づくりに注力していくようになり、現在ではプロ向けの包丁の9割を堺の包丁が占めています。
そんな堺の包丁メーカーである芦刃物製作所が、1986年に販売を開始したのがこのLOGナイフです。LOGは、ログハウス(LOG House)のログで、丸太のことです。天然木の形状を活かして、まるで丸太のようなハンドルデザインにしていることから、この名が付きました。天然木をそのまま使用しているので、2つと同じナイフが無いのがLOGナイフの特徴です。
LOGナイフの鋼材は、ステンレス包丁にも良く使われているモリブデン鋼です。これはステンレスにモリブデンを添加した鋼材です。モリブデンは、熱処理(焼き入れ・焼き戻し)の性能を向上させることが出来るので、切れ味が良く、刃持ちの良い刃物を作ることができます。また、靭性と耐食性を高める効果もあります。そのため、切れ味、刃持ち、耐食性、研ぎやすさのバランスが良い刃物を作ることができるため、包丁以外には医療用メスなどにも使われています。
私の持っているLOGナイフは、30年近く前に入手したものですので、現在販売されているナイフとは形状が少し異なります。基本的には直線的なブレードデザインですが、ポイント近くが少し上に持ち上がったスキナータイプに似たデザインになっています。
正直、切れ味だけで言えば、VG-10や154CMなどの刃物用ステンレス鋼や、ZDP189のような粉末冶金鋼の方が切れます。ですが、そんなカリッカリの切れ味を求めなくても、ナイフとして普通に切れるので、食材を切るとかロープを切るなどという普通の用途には、十分使えます。
握りやすさについては、好みが分かれるかもしれませんが、木のもつ質感と天然木由来のゴツゴツ感がマッチして、私は使いやすいと感じます。
ハンドルの構造は、ラブレス伝統のフルテーパードタングで、ヒルトの部分を中心としてバランスするように調整されています。
食材を切るには十分な切れ味がありますし、重量バランスの良いナイフなので、細かい作業に向いており、長時間使っても手が疲れないのが良いです。
ストラップが付いたシースは、実用面で不評の声があるのは確かですが、私はむしろストラップにカラビナを付けてベルトに吊るして使ったりします。それぐらいのユルさも含めて、肩ひじ張らずに使えるのがLOGナイフの良い所と言えるでしょう。
普段使いのナイフとして、機能性を追うのではなく、木のぬくもりを感じさせながら、しっとりと持つ手に馴染むこのナイフは、スペックでは語れない一つの終着点にあるナイフだと私は感じています。
LOGナイフについて
キャンプでオードブルを盛り合わせてワインをちびちびとやる時、まな板の上のチーズを切るのに、ファルクニーベンのF1やスパイダルコのデリカのような実用一辺倒のナイフでは、いささか興が乗りません。そんな時には、このLOGナイフを持ち出します。
LOGナイフは、芦刃物製作所という大阪府堺市の包丁メーカーが製作したナイフです。堺市は、岐阜県関市や福井県越前市、新潟県燕三条などに並ぶ刃物生産地です。1543年の鉄砲伝来により、全国でもいち早く鉄砲生産が盛んになり、織田信長が堺の鍛冶衆に大量の鉄砲を作らせたことなどからも解るとおり、堺は古くから金属製品に関する高い製造技術をもっていました。江戸時代に入り、鉄砲製造が下火になるに従い、刃物づくりに注力していくようになり、現在ではプロ向けの包丁の9割を堺の包丁が占めています。
そんな堺の包丁メーカーである芦刃物製作所が、1986年に販売を開始したのがこのLOGナイフです。LOGは、ログハウス(LOG House)のログで、丸太のことです。天然木の形状を活かして、まるで丸太のようなハンドルデザインにしていることから、この名が付きました。天然木をそのまま使用しているので、2つと同じナイフが無いのがLOGナイフの特徴です。
LOGナイフの鋼材は、ステンレス包丁にも良く使われているモリブデン鋼です。これはステンレスにモリブデンを添加した鋼材です。モリブデンは、熱処理(焼き入れ・焼き戻し)の性能を向上させることが出来るので、切れ味が良く、刃持ちの良い刃物を作ることができます。また、靭性と耐食性を高める効果もあります。そのため、切れ味、刃持ち、耐食性、研ぎやすさのバランスが良い刃物を作ることができるため、包丁以外には医療用メスなどにも使われています。
私の持っているLOGナイフは、30年近く前に入手したものですので、現在販売されているナイフとは形状が少し異なります。基本的には直線的なブレードデザインですが、ポイント近くが少し上に持ち上がったスキナータイプに似たデザインになっています。
切れ味
包丁にも使われている鋼材ですので、それなりの切れ味はあります。刃厚が最大約2mmのフラットグラインドというのも切れ味の良さにつながっており、チーズやトマトもストレス無く切れます。正直、切れ味だけで言えば、VG-10や154CMなどの刃物用ステンレス鋼や、ZDP189のような粉末冶金鋼の方が切れます。ですが、そんなカリッカリの切れ味を求めなくても、ナイフとして普通に切れるので、食材を切るとかロープを切るなどという普通の用途には、十分使えます。
耐久性
LOGのモリブデン鋼は、所謂ステンレス包丁に使われている鋼材ですから、刃持ちは普通です。むしろ、研ぎやすいので、切れ味が落ちたと感じたらこまめに研ぐというような使い方が向いています。握りやすさ・取り回し
天然木のハンドルは、樹脂で処理されているので、水や汚れに強く、耐久性もそれなりにあります。マイカルタに比べれば耐久性に劣るとは思いますが、無垢材そのままではないので、十分実用に耐えます。握りやすさについては、好みが分かれるかもしれませんが、木のもつ質感と天然木由来のゴツゴツ感がマッチして、私は使いやすいと感じます。
ハンドルの構造は、ラブレス伝統のフルテーパードタングで、ヒルトの部分を中心としてバランスするように調整されています。
使い勝手
刃長は約85mmとシースナイフとしては小ぶりで、刃厚も約2mmと薄いので、渓流魚などを捌くのに向いています。食材を切るには十分な切れ味がありますし、重量バランスの良いナイフなので、細かい作業に向いており、長時間使っても手が疲れないのが良いです。
ストラップが付いたシースは、実用面で不評の声があるのは確かですが、私はむしろストラップにカラビナを付けてベルトに吊るして使ったりします。それぐらいのユルさも含めて、肩ひじ張らずに使えるのがLOGナイフの良い所と言えるでしょう。
総評
ナイフを実用面で極めて行くと、高い硬度の粉末冶金鋼というのが一つの解と言えるでしょう。切れ味が良く、耐摩耗性に優れ、粘りがあって刃が欠けにくく、耐食性にも優れる。確かに、そのような高性能なナイフは、使っていても安心感があり、何でもスパスパ切れて気持ちが良いです。でも、切れ味や耐久性だけがナイフの魅力では無いことに、このLOGナイフは気づかせてくれます。普段使いのナイフとして、機能性を追うのではなく、木のぬくもりを感じさせながら、しっとりと持つ手に馴染むこのナイフは、スペックでは語れない一つの終着点にあるナイフだと私は感じています。
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